(…前編「誰もが憧れる“あの時代のニューヨーク”の香り! 映画好きならたまらないビタースウィートな物語」より続く)
【映画を聴く】『さよなら、僕のマンハッタン』後編
マーク・ウェブ監督がどうしても撮りたかった作品
サイモン&ガーファンクルのほかにも、本作『さよなら、僕のマンハッタン』にはルー・リードやボブ・ディランといったいかにもニューヨーク的なシンガー・ソングライターの楽曲が使われている。また、主人公のトーマスにメンター的な立場でアドバイスをする謎の隣人、W・F・ジェラルドがジャズ好きという設定から、デイヴ・ブルーベックやビル・エヴァンスのピアノ・ジャズ、それにチャールズ・ミンガスやハービー・ハンコックらの楽曲も随所に使われている。
・[動画]奇妙な隣人の助言「父の愛人の後を追え」『さよなら、僕のマンハッタン』予告編
そういったビッグネームばかりが並ぶプレイリストを見ると、いかにも本作が最大公約数的な“ニューヨーク感”に甘んじているように思えてしまうが、選曲にはマーク・ウェブ監督のほか、キャストやスタッフの意図も反映されているという。たとえばビル・エヴァンスの「ピース・ピース」はジェラルド役のジェフ・ブリッジスが好きで現場に持ってきたことがきっかけとなり、劇中にも使われることになったそうだ。
また、よく耳を澄ましてみると、トーマスと父の不倫相手であるジョハンナが関係を持つことになる友人の結婚パーティのシーンでは、劇中のパーティバンドが「私の恋人になって」と歌われるロネッツの「Be My Baby」を演奏していたりと、さまざまな楽曲が有機的に物語とリンクしているのがわかる。ボブ・ディランの曲もジョハンナの名にちなんだ「ジョアンナのビジョン」だったりして、サウンドトラックからさまざまな深読みができるのだ。
『さよなら、僕のマンハッタン』は4月24日より全国順次公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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