(…前編「坂本龍一が韓国映画で構築した新たな音世界とは?」より続く)
【映画を聴く】『天命の城』後編
どの作品よりもコントラストが強いのが特徴
今回の『天命の城』のサウンドトラックは、近年の坂本龍一が手がけた中ではもっとも“映画音楽らしい映画音楽”と言っていいかもしれない。たとえば『母と暮せば』は、小津安二郎監督作品に代表される往年の松竹映画へのオマージュとも思えるノスタルジック志向。『レヴェナント:蘇りし者』はアメリカ北西部の荒野の厳しい寒さを引き立てる重厚なドローン・ミュージック。そして『怒り』では、音階と音数を極限まで削ぎ落とした旋律の背後にソロ作『async』へとつながるコラージュ感が多分に含まれていた。
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それぞれが作品の内容に寄り添ったサウンドトラックとして、いわば職人的に作り上げられているが、いずれにも共通するのが「ミニマルで“間”を重んじたサウンド」であることは前編で述べた通り。『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』のメイン・テーマのように印象的なメロディはほとんど登場せず、音楽が映像より前に出ることもいっさいない。
そんな中で本作は、近年のどの作品よりも音楽のオン/オフのメリハリが効いているのが特徴。映画音楽として、他の坂本作品よりもコントラストが強いのだ。イ・ビョンホン演じる主和派のチェ・ミョンギル(吏曹大臣)やキム・ユンソク演じる主戦派のキム・サンホン(礼曹大臣)らが国の運命を左右する重大な決断を迫られる瞬間には叙情的な美しいピアノ曲が、極寒の中、凄惨な戦闘を繰り広げるシーンにはハンス・ジマーかと思うほど勇ましくシンフォニックな曲が用意されたりするいっぽう、音楽が不要と判断されたシーンの静寂は恐ろしく深い。
『天命の城』は6月23日より全国公開中。
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