【週末シネマ】『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
リア充犠牲に映画道を極める
シリーズ6作となる『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』。第1作の公開は1996年、公開時33歳だったトム・クルーズは7月に56歳になったが、 シリーズにおける“不可能を可能にするミッション”とは1作ごとにスケールアップするクルーズのアクション演技のことを指しているのでは、と思えてくる。
・海外で稼ぐ『ミッション・インポッシブル』。特に日本で根強い人気
前作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』では離陸する飛行機にしがみつく離れ業をやってのけ、もうこれ以上は無理と誰もが思ったが、そのハードルを全身全力で超えるのがクルーズと『M:I』シリーズの真骨頂だ。今なお、スタントマンを使わず、すべて自分で演じている。
昨夏は撮影中、ビルからビルへ飛び移るシーンで骨折というアクシデントに見舞われ、ニュースになったが、治癒直後からも大車輪の活躍……という撮影裏話を伝え聞くと、もはや往年のジャッキー・チェンに勝るとも劣らない。
陰謀や裏切りが交錯し、悪役についても真の敵は誰なのか、ストーリーは複雑に広がっていく。極端に言えば、“世界存亡の危機にイーサン・ハントが身を挺して挑む”というシリーズ一貫のテーマを心得ておくだけでも十分だが、イーサンの過去も鍵となるので、シリーズを通して見てきたファンはさらに楽しめる。
2013年の『アウトロー』から始まったクルーズ&マッカリーのコンビは生身のアクションにこだわる映画愛という共通点で、70年代や80年代の映画の醍醐味を21世紀のスケールに増大させている。本作では敢えて、オリジナルのTVシリーズを意識した原点回帰をする部分がいくつもあり、そこに作り手の矜持を見る思いだ。パリの街を縦横無尽に猛スピードで突っ走るカーチェイス、ほぼ成層圏の高度(7620メートル)からのダイブ、山間のヘリコプター追跡シーン……どれも手に汗握る臨場感だ。
マーベルやDCのヒーロー映画が大ヒットする今、スーパーパワーを持たない人間がここまでやる。イーサン・ハント=トム・クルーズが全力疾走するのを見ているだけで感動させられてしまうのだ。
クルーズは来日会見で「人生を映画作りに捧げている」「それしか生き方がわからない」と語った。この言葉に、スーパースターでありつつ、よき夫よき父親でもあろうとしてきた40代までの彼の歩みを思い出した。リア充を犠牲にして、50代半ばを過ぎても映画に命知らずの献身する自分をイーサン・ハントに投影していると思うのは考えすぎだろう。だが、『M:I』シリーズはトム・クルーズの生き方そのものにも見えてくるのだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』は8月3日より全国公開。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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