(…前編「母からの拒絶、そしてその“代わり”を探し続けた壮絶人生を描く衝撃作」より続く)
【映画を聴く】『エリック・クラプトン〜12小節の人生〜』後編
ブルースを歌うことが必然に思えるアーティスト
本作『エリック・クラプトン〜12小節の人生〜』は、基本的に過去の貴重な映像や写真を中心に構成され、そこに現在のクラプトンや関係者へのインタビュー音声を重ねる形式を取っている。クリームやデレク&ザ・ドミノス、ソロでの代表曲、そしてそれらの未発表ライヴや別ミックスが惜しみなく盛り込まれ、その合間をグスターボ・サンタオラヤの劇伴がさり気なく埋めている。
サンタオラヤは、アカデミー賞作曲賞を受賞したアン・リー監督『ブロークバック・マウンテン』とアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督『バベル』、それにウォルター・サレス監督『モーターサイクル・ダイアリーズ』などの音楽で知られるアルゼンチン出身の作曲家。フォルクローレに使われるアンデス由来の弦楽器を多用し、隙間を活かしたオーガニックなサウンドを作ることで知られる。
古い映像、音源が多く使われていることもあり、本作は映画としてのルックがやや地味めではある。しかしクラプトン作品とも親和性の高いサンタオラヤのスコアが、アナクロ趣味に偏らない現代的なドキュメンタリーとしてのバランスを保つことに貢献しているのは間違いない。
冒頭でも触れたように、ブルースは悲しみを糧とする音楽。歌い手の“影”が濃ければ濃いほど、その歌にも深みや奥行きが加わる。その意味では、エリック・クラプトンほどブルースを歌うことが必然に思えるアーティストはいない。改めてそんなことを考えさせられる名ドキュメンタリーだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
『エリック・クラプトン〜12小節の人生〜』は11月23日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。
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