【週末シネマ】『ブラック・クランズマン』
苛烈な現実を知り抜いたスパイク・リー最新作
先月、第91回アカデミー賞で脚色賞を受賞した『ブラック・クランズマン』は、80年代のデビュー時から人種差別と向き合い続けてきたスパイク・リー監督の最新作。1970年代のアメリカ西部コロラド州を舞台に、若き黒人刑事が白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」に潜入捜査を試みる犯罪映画だ。
原作となったノンフィクションの作者で、本作の主役であるロン・ストールワースは1972年、コロラドスプリングスで黒人として初めて刑事に採用された。署内では露骨な嫌がらせや冷遇も受けながら、情報部に配属された彼は新聞紙上でKKKのメンバー募集広告を見つけ、自ら電話をかけて黒人差別発言をまくしたて、入会面接まで進む。“白人”のロンとして、面接を受ける役はユダヤ系の刑事フリップ・ジマーマンが担うことになった。
KKK側もロンの素性をすぐに信用せず様子を見るが、電話での雄弁さ、実際に会った彼が持つリーダーとしての資質に惚れ込んで幹部候補として考慮するようになる。やがてロンは電話でKKKの最高幹部デヴィッド・デュークに気に入られるほどになるが、団体内部へ深入りすればするほど、ロンとフリップの綱渡りは危険なものになっていく。その過程をサスペンスフルに、時にコミカルな描写もまじえながら追っていく。
ロンを演じているのはジョン・デヴィッド・ワシントン。デンゼル・ワシントンの息子だ。父が伝説の黒人公民権運動家を演じたリー監督の『マルコムX』に端役で出演したのが映画デビュー。その後アメリカンフットボールのプロ選手になったが、引退後に俳優の道に進んだ。特別なカリスマ性を放つ父とは違う、どこにでもいる普通っぽさが今回の役に活きている。逆にフリップを演じるアダム・ドライヴァーは、抜けているようで只者ではない存在感を放つ。KKK最高幹部デューク役のトファー・グレイス、狂信的なKKKメンバーの夫婦を演じたヤスペル・ペーコネン、アシュリー・アトキンソンも巧い。
原作ではロンの相棒について、身の安全のために名前も含めて詳細は明らかにされていない。ロンの恋人で、地元大学の黒人学生自治会会長の女性キャラクターも、映画にだけ登場する架空の人物だ。捜査が実際に行われたのは1979年だが、ロンが警察官になって間もない1972年に設定を変えることで、70年代前半アメリカにおける社会や政治状況を映画に取り入れ、リーとチャーリー・ワクテル、デヴィッド・ラビノウィッツ、ケヴィン・ウィルモットはオスカー脚色賞に輝いた。
『ブラック・クランズマン』は3月22日より全国公開される。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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