東京オリンピックの開催延期の決定と時をほぼ同じくして、イギリス政府も先週大きな決断に踏み切った。「You must stay home」ー ジョンソン首相は現地時間3月23日夜、国民に向けたテレビ演説でこう訴え、この「国家的危機」に立ち向かうため、イギリス全土に3週間の外出制限を発令した。
「頻度を落とした上での生活必需品の買い物」「1日1回の運動」「誰かに医療的支援をするため」「真に必要性があり、自宅で仕事できない場合の出勤」、これらに該当しない外出は制限され、公共の場所で、同居する家族以外の人と2名以上で会うことも禁止となった。これまでの「外出自粛」との大きな違いは、違反した場合に罰金を課される可能性があるということだ。
外出制限が始まった1週目は皮肉にも快晴が続いたロンドン。ふと窓から外を覗くと、近所の住民が庭でお茶を飲んだり運動したり、限られたスペースで日差しを楽しんでいる。
自宅にこもる日々が始まって3日目、思いがけず感動的なシーンに出会った。その日はイギリスの公的医療サービス、NHS(National Health Service)に拍手を送って感謝を伝えようというキャンペーンが、SNSなどを通じて全国に呼びかけられていた。「Clap for Our Carers」と名付けられたこのキャンペーンは、26日の午後8時ぴったりにイギリス全土で一斉に行われた。
外出はできないので、ロンドン市民は自宅の玄関前やベランダに立ち、目の前にはいないけれど今もどこかで活動している、大勢のNHSスタッフを想って拍手する。拍手の音と歓声は家の中にいても聞こえるほど、数分間にわたって鳴り響いた。この瞬間、イギリス中の家々から医療関係者に感謝の拍手が送られたと思うとなんとも感慨深い。
新型コロナウイルスから命を守り、最前線で闘うNHSは、今やヒーローのような存在だ。飲食店が休業する前は、NHSのスタッフや医療関係者に「コーヒーを無料で1杯サービスします」と告知するカフェがあったり、駐車場料金を無料にしているスーパーマーケットもある。患者の送迎や物資の運搬など、NHSを支援するボランティアがインターネットを通じて募集されると、開始24時間で約40万人からの応募があったという。政府が「Protect NHS」(NHSを守ろう)と呼びかけるのは、NHSが重篤患者の治療に専念できる体制を維持するためであり、その意識は国民にも浸透しているように見える。
政府が勧める感染予防対策のもう1つの柱に「Social Distancing」(社会的距離)がある。人と人との接触による感染拡大を防ぐため、互いに2メートルの距離を取ろう、というものだ。外出制限後にスーパーに行ってみると、買い物客が入り口まで長い列を作っている。これは買い占め目的の客が殺到したのではなく、店内に一度に入る人数を一定にコントロールするためだ。外で待っている間も、会計を待つ間も、前後の人と間隔を開けて並ばなくてはならないなど徹底されている。
(Sara Suzuki/London)
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