レバノン大爆発で怒りの反政府デモ! 背景にある多宗派や難民問題を知る手がかりとなる3本
8月4日、レバノンの首都ベイルートで大規模な爆発が起こり、150人以上が死亡、6000人以上がケガを負うという痛ましい事故が起きた。爆発の被害は甚大で、最大で30万人が家を失ったとも言われ、その中にはベイルートに逃亡中の日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告の自宅も含まれているという。今回の事故を受けて、政治の腐敗と怠慢が爆発を招いたと主張する市民によって、反政府デモが拡大。その結果、8月10日に内閣が総辞職を表明するという事態となった。
日本人にとって、レバノンの政治的背景、宗教的背景、歴史的背景などはなかなかに複雑で、理解することは容易ではないが、映画をきっかけにすれば、レバノンという国を理解する入り口に立てるかもしれない。
レバノン国内には、キリスト教、イスラム教徒の各宗派が混在している。そこから派生する民族、政治、宗教の対立を見応えたっぷりの法廷ドラマとして描き出したのが『判決、ふたつの希望』だ。本作のメガホンをとったジアド・ドゥエイリ監督はレバノン出身。クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』にアシスタント・カメラマンとして参加した経歴を持つクリエーターだ。物語は、パレスチナ人の現場監督ヤーセルと、キリスト教徒のレバノン人男性トニーが、アパートのバルコニーからの水漏れをめぐって起こしたいさかいが、やがて国家を揺るがす法廷劇にまで発展するさまを描き出したもの。第90回アカデミー賞では、レバノン史上初となる外国語映画賞ノミネートの快挙を成し遂げた。
近年、レバノンでは、シリア内戦により国を追われた難民を多く受け入れている。そこに暮らす子どもたちにスポットを当てた作品が、レバノンで生まれ育った女優ナディーン・ラバキーがメガホンをとった『存在のない子供たち』だ。誕生日も知らない、戸籍もない少年ゼインが、両親を告訴するに至るまでの痛切な思いを描き出したドラマ。主人公のゼインを演じたゼイン・アル=ラフィーアも、実際のシリア難民。役柄と自身が似た境遇にあるということが、ゼインの芝居にリアリティーをもたらしている。
そしてもう1本。シリア難民の視点からベイルートを描き出したドキュメンタリー映画が『セメントの記憶』だ。舞台となるのは、長い内戦から復興を遂げ、建設ラッシュに沸くベイルート。超高層ビルの建設に従事するのは、戦争で家を破壊されたシリア人移民労働者たちだ。だが、失業率が高いレバノンでは、低賃金で職を得るシリア難民への風当たりは強く、人権を無視するような扱いを受けている。そこで主人公は、出稼ぎ労働者だった父親を追想する。シリアではセメントが破壊されたが、レバノンではビルを建設している。祖国を亡命した元シリア兵のジアード・クルスーム監督は、喪失と悲しみの記憶を美しい映像とモノローグで描き出した。(文:壬生智裕/映画ライター)
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