子供たちにとっては“巣ごもり”、働き盛りにとっては“テレワーク”……。家族みんなが家に集う状況が続くことでライフスタイルそのものが再考を迫られている。人のそれぞれが家の中での自分の”居処”を模索する中で、インテリアの果たす役割は何なのか? 考えるきっかけとなる対談が開催された。アルフレックスジャパン代表取締役社長・保科卓さんと、カッシーナ・イクスシー代表取締役社長・森康洋さんによる「arflex × Cassina ixc. webinar コロナ禍に求められる真の『豊かな暮らし』」だ(2020年8月20日、聞き手:ifs未来研究所所長/ジャーナリスト・川島 蓉子さん)。コロナ渦の下「何かできないか」との問題意識から立ち上がったこのオンライントークイベントは、初の試みながら約2000名が視聴した。
「それまでの労働時間短縮の流れに加え、感染症対策でステイホームとなり、家具であれ食器であれ家の中での暮らしに目が行くようになっている」(森さん)が、保科さんはまさにご自身がその状況に直面しており、留学していた3人のお子さんが帰国し「家が5人住まいの設定になっていない」と。家族で過ごすありがたみを知るとともに、生活空間のあり方、とくにキッチンの大切さを知り、自社商品を改めて見直したという。実際、メンテナンスの依頼が急増したといい、「10〜20年前に購入したオーナーが愛着のある家具をまず気にし始めるようです」と森さんは分析。保科さんも「毎年メンテナンスのキャンペーンをしているが、明らかに前年よりも成長しています。飾り棚やパーソナルソファなど、時間があるときにニーズが増える商品が引き合いがあるなど、明らかに傾向が変わっています」と述べた。
高級家具、イタリアモダンという共通したイメージがあるとされるアルフレックスとカッシーナ
イタリアの高級家具ブランドとして並べられることが多い両社だが、どんな違いがあるだろうか。
アルフレックスジャパンは1969年創業。先代の保科正さん(現・顧問)がアパレルを辞めてイタリアに渡り、イタリアarflexを日本に広めることを決意、衣食と等しくインテリアを考える“ライフスタイル提案”の先駆けとなった。創業当初より日本の家にマッチする日本オリジナル商品を展開、90年代はチェアから収納に至るまであらゆるジャンルをカバー、2010年代=セレクトする時代にブランドミックスを展開し、トータルコーディネート提案が進む。オリジナルブランドの他、無垢材のRiva1920(リーヴァ)、アウトドアのRoda(ロダ)、収納が得意なMolteni&C(モルテーニ)、モルテーニグループ傘下のキッチンDada(ダーダ)と全5ブランドを取扱い、食も包摂した総合提案を行っている。北海道・旭川の自社工場で職人が丁寧な手仕事で仕上げているのも自慢のひとつで、高級家具イメージがあるが「家具はあくまで道具で人前に出ずに使われてなんぼ。暖かみ、使い勝手を意識してやってきた」(保科卓さん)。
一方のカッシーナ・イクスシーは、武藤重遠さんが創業し輸入家具を扱う中で1980年にイタリアのCassinaと提携。一流の個性的なアーキテクトデザイナー(建築家がデザインを担当)をはじめとする巨匠たちの手によるスタイリッシュなコレクションで、日本におけるイタリアンモダンの草分け的存在となる。自身がアパレル出身の森さんは「バブル前の当時はDCブーム。ファッション誌が流行の教科書となり、洋服で自分を表現するようになった時代」と当時のトレンドを振り返る。その後コンランショップ・ジャパンを連結子会社化し、ドイツのキッチンブランド、ジーマテックをラインナップに加え、LDKを一括りに多様化の時代でのライフスタイルを提案している。世界で唯一Cassina製品のリプロダクトを許された工場を群馬に持つ。
働くという行為が家に入り、さまざまな境界がなくなった
今回の事態を受け、“ライフスタイル提案”をモットーとしてきた両社。だからこそ敏感に感じ取ったトレンドをみつめる視点がある。
「グローバル化と情報化で、人を沢山集めてビジネスをするというのが普通でしたが、今回、人を集めたらダメ、接触はダメとこれまでの日本人のライフスタイルが否定されました。また、会社を中心にした生活を疑うことなく、何が豊かかを顧みることもなかったといえるでしょう。家で仕事することができれば、長時間の通勤がなくなるうえに、付き合いの夜会もなくなる。つまり、テレワークできるようになると遠くにいることがハンデでなくなるのです。オフィスワークとテレワークの境目がなくなり、時間と場所から解き放たれたことを意味します」(森さん)
ただ、新たに家でテレワークをするには、そのスペースも必要だ。「リフォームのご提案をすることも多いのですが、その際、サイドテーブルや書斎の要望が100%入ってくるようになりました。それまではなかったことです」(保科さん)という。
もちろん、従来のオフィスのようなセットをそのまま家に置きたくもないし、家庭と仕事は居心地良く切り替えたいところ。その例として保科さんが挙げたのが、33年前にアルフレックスジャパンが河口湖に設けたカーサミア河口湖だ。当時はバブルによる地価高騰を受け、東京一極集中を避けようと設けた施設で、本社移転も考えていたという。このような場所を“リモートワーク”の場所として再考するときに来ているというのだ。保科さんご自身も、リゾートマンション カーサミア河口湖ジラゴンノが5月中旬に売りに出ていたのを見つけて内覧し、7月上旬に購入して住んでいるという。
「暮らしはじめてまだ2週間ほどですが、制約がない時間や空間の豊かさを今回実感しました。30年前の当時も東京から移り住んだ社員がいましたが、今回、背中を押されるように郊外での暮らしが見直されていくでしょう」(保科さん)
それとともに、家具に対する価値観も見直されると森さんは言う。所有することが目的だった価値観から、巣ごもりで断捨離してみたらほんとうに心地いいことが何か見えてきたというのだ。そして、それは、人間なんだから、自ら自分のこととして考えるべきだと言う。
「自分にとって大切なこと、心地いいことは人と比べるものでもない。心地いい椅子、心地いいキッチン……。品質、デザイン、長く使って、メンテナンス、修理 消費文化を脱して、いいものを長く使うという文化になればいいと思うのです」(森さん)
リモート時代における“リアル”の価値
そうなってくると、ヴァーチャルでのやりとりがむしろ日常となり、リアルコミュニケーションが希薄になるのではないかと言われる。接客の観点から言えば、近頃話題になるヴァーチャルショールームについてはどう考えておられるのだろうか。
森さんは、「おそらくリアルとバーチャルの問題は、デジタルとアナログの関係などと同じで、相反するもの、どちらか一方という話ではない。ある意味、いいとこどりしなければいけない関係にあると言えるでしょう。人間は生き物だから、互いに接触しないと生きていけない。すべてがEコマースではできないのです。お店に来ていただいて接客を受けて選ぶ。お客様の趣味趣向、感情に寄り添って、AIでは味わえないサービスをご提供し、感動していただく必要があると思います」と言う。
保科さんも、「私どもでもヴァーチャルショップを作るべきではないかという意見がありましたが、敢えて立ち上げていません。座り心地を確認していただくなど、接客を通じてお伝えすべきことがある。もっとも、ECでの決済など、ご来店いただかなくてもできることには対応していく。きちっとメリハリを付けていくことが次のフェーズで、お客様にお選びいただき、決めていただくことだと考えます」と述べた。
たとえば、ショールームなどでの提案がなければ実感できない最近のトレンドとして、アウトドアと境界がないインテリアが挙げられるだろう。自然への回帰というリモートワークへの憧れとも関連してくる。アルフレックスでいえば、アウトドアユースでありながらインドアにも適した上質かつ高性能なRODA(ロダ)は、今回をきっかけに注目度が上がっているという。カッシーナも今年は「旅するように暮らす」とのキャッチで室内と室外を繋ぐ「ボタニカルガーデン」でアウトドア家具を初提案している。
このように、いままで経験したことがないものが目の前に登場すると、いい意味でいいとこどりを模索することになると森さんは言う。両社のこれからのライフスタイル提案に注目したい。(文:fy7d)
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