昭和という時代、過酷な状況にありながらも、不屈の精神で戦い続けた男の姿を力強く描いた『沈まぬ太陽』が10月24日に公開され、主演の渡辺謙をはじめ、三浦友和、松雪泰子、鈴木京香、石坂浩二、若松節朗監督が、TOHOシネマズ スカラ座で初日舞台挨拶を行った。
上映後に行われた舞台挨拶だったが、実は渡辺もその回の上映を客席で見ていたという。現在、新作撮影中のため、今までスクリーンで完成作を見る機会がもてなかったのだが、観賞後の渡辺について、「見終わった後、目を赤くした謙さんが監督と抱き合い、男同士、讃え合っているのを見て、感激もひとしおでした」と鈴木。
三浦によると渡辺は、登壇前、舞台袖でずっと泣きっぱなしだったというが、登壇してからも涙が止まらない様子。渡辺は「自分の映画に感動して泣いている訳じゃないんです。みんながどれだけ大変な思いをして作ってきたかを、ちょっとだけご理解いただければ」と声を震わせた。
原作は、ベストセラー作家・山崎豊子の同名小説で、出版当時から物議をかもした作品でもある。今まで、何人もの映画人が製作を試み断念してきたが、「プロデューサーや監督とこの映画の製作について話し始めたときは、本当に完成できるのかと危ぶまれる状況でした」と渡辺。だがその後、社会情勢は激変。政権交代もあった変革の年にこの映画が公開されたことについて渡辺は、「この映画が、そんな時代を待っていたのではないかと思います」と感慨深げだった。
渡辺が演じたのは、信念を貫き通す男・恩地。そのライバルで、会社と出世のためなら手段を選ばない行天(ぎょうてん)を演じた三浦は、自らの役について「とても寂しい人」と感想を述べてから、「昭和30年代、40年代は、出世イコール人生の勝利者という時代だったと思う。今、思うと『ちょっと違うよね』ということを象徴した役が行天だったと解釈しながら見ていただければ」と話していた。
巨大航空会社を舞台に、政官財の癒着や不正が描かれていくが、「原作は本当にすばらしく、何回も読んだ」という石坂は、「これは“日本”について描いた作品。(自らの台詞である)『この会社は必ずや立ち直れる』と言うシーンでは、日本という国はまだまだ捨てられないんだという思いで演じたつもりです」と静かな声で語っていた。
劇中では1985年8月の日航機墜落事故についても描かれているが、この日は、その遺族であるバイオリニスト、ダイアナ湯川も駆けつけ、美しい調べを奏でてくれた。
3時間22分という長尺の本作は、途中に10分間の休憩が入るのだが、そのときに流れるのが彼女の音楽。事故の翌月に生まれ、父親の顔は見たことがないという湯川は現在イギリス在住だが、映画化の話を耳にし、製作総指揮の角川歴彦に手紙を書き、映画への参加を希望したのだという。
映画について渡辺は、「厳しい社会情勢の中、明日へどう希望をつないでいこうかと思い悩んでいる方もたくさんいらっしゃると思います。(ラストシーンの)沈みゆく太陽の温かさ、力強さが、みなさんの希望の灯(ともしび)になってくれたらと思います」と客席に熱く語りかけていた。
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