『母なる証明』で韓国の鬼才監督ポン・ジュノが語る母の愛、そして狂気

ポン・ジュノ監督
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成人後も子どものような無邪気さを持ち続ける青年と、そんな息子が心配でならない母親。貧しい暮らしのなか、ただ2人、身を寄せ合うようにして生きてきた彼らに、突然思いも寄らない出来事がふりかかる。息子が女子高生惨殺の容疑者として連行されてしまったのだ。無実を主張する息子のために、母は真犯人を捜し始めるが……。

『殺人の追憶』『グエムル−漢江の怪物−』などで国際的に高い評価を受ける韓国の鬼才ポン・ジュノ監督の3年ぶりとなる新作『母なる証明』は、もはや狂気と言っても過言ではない、狂おしいほどの母の愛をテーマにしている。極限まで追いつめられた人間の深層心理を冷徹に描いたこの作品について、ポン監督に話を聞いた。

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──「韓国の母」と呼ばれる国民的女優キム・ヘジャさんが主演ですが、60代の女優を主演に据えることに、迷いはなかったのでしょうか?

監督:彼女は韓国では象徴的な意味を持つ女優です。彼女のことを知らない海外の方も、その演技を見れば感動や興奮を覚えると確信していました。だから、年齢は何のネックにもなりませんでした。

──この映画は、キム・ヘジャさんにとって大きなターニングポイントになったのではないでしょうか?

監督:私は少し変わり者なので、小さい頃から、彼女が慈愛に満ちた優しい母親を演じるのを見て、その裏には狂気があるとずっと感じていました。今回は、その狂気を爆発させるような映画を撮りたかったのです。
 ただ、彼女に最初にストーリーを見せたときは、この型破りな役を、彼女がどう受け止めるか心配でした。けれど彼女は「今までとは違う」と喜んでくれたので、「やっぱり思った通りだった」と嬉しく感じましたね。

──なぜ、息子役にウォンビンさんを起用したのですか?

監督:どのような息子だったら母親をここまで不安にさせ、追い込むのだろうと考えたときに思い浮かんだのがウォンビンさんでした。
 彼には都会的であか抜けたイケメンというイメージがあったのですが、実際に会ってみると、非常に素朴で飾らない青年でした。さらに(映画の舞台と同じような)田舎町で育っているので、することが何もない田舎の青年たちの雰囲気をよく知っていて、映画にとってはとてもプラスになりました。
 また、ウォンビンさんとキム・ヘジャさんの目がとてもよく似ていたのも幸運でした。この映画ではクローズアップを多用しているし、瞳についてのセリフも散りばめられていますから。
 彼は、兵役をはさんで5年の空白期の後、この作品でカムバックしたわけですが、この役柄を受け入れるのは、ある種の勇気や果敢さが必要だったと思います。ですので、受け入れてくれてとても嬉しく思ったし、感謝しています。

──この映画には、監督自身の「母親へのイメージ」が投影されているのでしょうか?

監督:当然、潜在意識が投影されていると思います。
 実は、5月に母が試写を見てくれたのですが、その時は、本当に緊張したし不安でした。カンヌ国際映画祭でのワールド・プレミアのときよりも緊張したほどです(笑)。
 母は内容を全く知らずに見に来たのですが、私のスタイルをよく知っているので、当たりの柔らかい映画を撮るとは思っていなかったと思います。けれど、試写に来てからすでに半年近く経ちますが、母とは映画について、未だに一言も言葉を交わしていません(苦笑)。会ったり電話をしたりはしているのですが……。
 あと2、3年したら、何か話してくれるかな。

──カンヌ国際映画祭でも高く評価されていましたが、どこが評価されたのだと思いますか?

監督:これまで母親について描かれてきたどの映画や小説でも見ることのできなかったストーリーであるという声が多かったですね。また、サスペンス的な側面を、ヒッチコックの作品に例える欧米の記者も多かったです。

──母子が置かれているのは、弱者にとって生きにくい環境に思えます。

監督:実は、韓国の社会状況は数年前より良くなっているのですが、弱者にとって生きづらいことに変わりはありません。けれど、これは韓国だけの問題ではなく、資本主義の国すべてに共通していると思います。ただ、前作の『グエムル』では弱者同士が助け合う姿を描きましたが、この作品では弱者同士が互いを追い込んでゆく。そこが悲しいと思います。

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