シリーズ1作目から3作目までの興収が、それぞれ、70億円、66億円、71億円と、すべて大ヒットした『スパイダーマン』シリーズをはじめ、興収90.5億円を記録した『ダ・ヴィンチ・コード』(06年)など。ここ数年、大ヒット作を生み出しているのがソニー・ピクチャーズ エンタテインメントだ。
11月20日に前夜祭が行われ、11月21日より公開となる映画『2012』。これも、『天使と悪魔』『ターミネーター4』と並ぶ、今年のソニー・ピクチャーズの目玉作品。『インデペンデンス・デイ』『デイ・アフター・トゥモロー』で知られるヒットメーカー、ローランド・エメリッヒ監督の最新作で、古代マヤ文明の予言をもとに、2012年に地球が滅亡するまでの3年間を描いたSFパニック大作だ。
洋画の低迷がささやかれる中、『2012』を大ヒットに導けるか? この映画にかける思いから、洋画市場低迷の理由などを、同社代表執行役員兼映画部門日本代表の佐野哲章氏に語ってもらった。
冒頭の53分を見て、早く続きが見たくなった
『2012』は、『アバター』(12月23日公開)などと並ぶ、今度の正月映画の目玉作品。その冒頭から53分までの映像がマスコミに初披露されたのが、今年の10月1日のことだ。そこに登壇し、マイク片手になぜ53分版の映像を先に見せたのかを、熱く語り始めたのが佐野氏だった──。
「僕が53分版を最初に見たのは、メキシコのカンクーンです。8月にそこで、ソニー・ピクチャーズの世界宣伝会議が開かれ、エメリッヒ監督も来て、53分版をソニーの社員だけに見せてくれた。
実は映画監督は、作品を途中で見せるのをイヤがるんです。見せるとしても、いいところだけを編集したもの。ところが『2012』は、映画の冒頭から53分までの映像を、そのまま見せてくれた。それだけ自信があるんだなって思ったし、実際、僕もそれを見て、すごく感動したんです。そして、早く続きが見たくなった。だから、これを早く日本に持ってきて、みんなにも見せたいと。宣伝スタッフにとっては、早めに作品を見るのも仕事の1つですし、想像だけで映画について喋るのと、実際に見てから喋るのとでは、相手に魅力伝えるエネルギーや情熱も違ってくる。そこで交渉し、日本にフィルムを持ってこられることになり、せっかくなので、マスコミにも見てもらえないかと考えたわけです」
また、上映の際には、監督のエメリッヒや主演のジョン・キューザックらも来日、舞台挨拶も行われた。だが、このタイミングで来日してしまうことで、日本公開直前には来てもらえないのではないかと、心配もしたらしい。
「全米公開が11月13日で、その翌週公開となる日本では、11月17日にジャパンプレミアを予定していて。今回の場合、世界、ほぼ同時公開なため、こうしたプレミアは世界で2〜3か所でしかできません。実際に行われるのは11月3日のロサンゼルス、続いてエメリッヒ監督の故郷であるドイツ、そして、17日の日本と、3か所のみ。心配したのは、10月1日に来てもらうと、プレミアには来てもらえないかも知れないということでした。なので、来日したときに『11月もまた来てください』とエメリッヒ監督に言ったら、『もちろん』との返事をもらえて。だから、滞在中は美味しいステーキをたくさんご馳走しました(笑)」
お茶の間から洋画番組が消えたことも一因
今回の取材で、『2012』の話と共に聞きたかったのが、洋画低迷に関しての佐野氏の見解だ。その前に、まずは洋画の低迷について、簡単に補足しておこう。
ほんの数年前まで日本でも、洋画の興行成績が邦画を常に上回っていた。それが、1985年(邦画50.9%:洋画49.1%)以来、21年ぶりに逆転したのが2006年(邦画53.2%:洋画46.8%)のこと。この「邦洋逆転」現象は、翌2007年に洋画が再びシェアを逆転させたことで(邦画47.7%:洋画52.3%)、一時的なものかと思われていた。だが、2008年は再び邦画が盛り返し(邦画59.5%:洋画40.5%)、差も20ポイント近くと、大きく広がってしまう。
そして今年、このままで行くと、昨年に続き邦画が洋画を上回りそうなのだ。その理由の1つとして佐野氏は、「洋画の見方がわからない若い人が増えている」ことを挙げる。
「僕は洋画離れだと認めたくありませんが、確かに若い人の中には洋画の見方がよくわからない人もいます。一方で、邦画の見方はよく知っているんです。例えば、人気ドラマの映画化なら、テレビの延長戦ですよね。聞くところによると、ドラマを映画化する場合は、わざとテレビのときとカメラアングルを変えない。それは、ドラマから見ているファンに違和感を感じさせないためで、最初の1時間はテレビと同じように撮影し、残りの1時間で映画ならではのショットを撮るそうです。
また、テレビで見られる洋画番組が減っていることも、洋画離れにつながっていると思います。しかも、淀川長治先生のように、番組を通して、直接お茶の間に映画の素晴らしさや見方を伝えてくれる伝道師も、いなくなってしまいました」
そんな時代だからこそ、「『2012』は王道の宣伝を展開していく」と佐野氏は語る。
「この作品は、洋画を見慣れていない人にも楽しんだり、感動したりしてもらえる、久々の洋画入門映画なんです。アクション、ドラマ、SF、CGと、いろいろな要素が詰まっていて、『This is ハリウッド大作』といえるような作品になっている。スケールの大きさ1つとっても、日本映画ではなかなか作りきれない。だからこそ、宣伝でも、洋画の素晴らしさはここにあるということを、しっかり伝えていきたいですね」
それにしても、なぜ洋画は急激に低迷してしまったのか? よく言われるのがハリウッド映画の企画力不足だ。大ヒット作の続編や、世界でヒットした映画のリメイクが増え、似たような作品ばかりになってしまった言われている。だが、現実は少々異なるようで、「ハリウッド映画は今年、アメリカで10%近くアップ。全世界でも、これまでで最高のところが多い」と佐野氏は指摘する。つまり、日本を除く多くの国では、ハリウッド映画はこれまで以上に観客を集めているわけだ。では、どこに、日本での低迷の理由があるのか?
「まずは、我々、配給会社やメディアが洋画の魅力を伝え切れていないことが挙げられます。というのも、本来、応援してもらえるはずのメディアが、今は自社でも映画を作っているため、自社映画をアピールすることが優先となっているのです。
また、洋画の場合、今回の『2012』のようなオリジナル作品では特にそうですが、認知度ゼロからのスタートになってしまいます。一方、日本のドラマを映画化した作品の場合、予め相当な認知度がある。そのレベルに追いつくだけでも洋画は、並々ならぬ努力と時間とお金がかかってしまうんです。興収30億円を超える邦画をよく見かけますが、テレビ局などのメディアが絡んだ場合、自社メディアを生かした宣伝展開ができ、大金をつぎ込まずに済む。もし洋画で、それに相当する宣伝を打ったら、出ていく宣伝費だけでも、見込める興収を上回るような額になってしまいます。それでは当然、赤字になってしまう」
さらに洋画の場合、スターが来日しても、せいぜい1〜2日の滞在となってしまうのも弱点だ。「これが邦画なら、キャスト・スタッフは日本にいるので、宣伝に協力してもらいやすい」と佐野氏。洋画と邦画ではキャストを使った宣伝でも大きな開きが存在する。だが、洋画低迷の理由は、これら日本の事情ばかりではない。「アメリカ側にも原因がある」と同氏は打ち明ける。
「例えばハリウッドの大ヒット作のテレビ放映権料は、その他の作品とセットにして数十億円規模。契約内容も放映回数や期限を制限しています。高額を払っても、放映は数回のみと言われたら、自分たちで映画を作ろうと思いますよね。そもそもテレビ局は、映像作りのノウハウは持っているわけですし、自分で作れば全世界のすべての権利を半永久的に手に入れられるわけですから」
映画人口を増やすためにも、名画座の復活を
ここまで、洋画低迷の理由について聞いてきた。今度は、洋画復活のためには何が大切かを尋ねてみた。
「1番大切なことは、みなさんに洋画を見てもらうことだと思います。そういう意味では、9月30日に発表された『午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本』のような企画は、起爆剤としても期待しています。これは、評論家と一般の方が選んだ映画黄金時代の50本を、全国25のシネコンで1年間に渡り上映するというもの。スタートは来年2月で、料金は大人1000円、学生・子ども500円となっています。
僕はこれをきっかけに、名画座をもう1回、復活させたいと思っていて。映画人口を増やすためには、1本1500円で見てくれるお客さんも、指定席で3000円で見てくれるお客さんも大事ですが、3本1000円で見てくれるお客さんも、同じように大事なんです。そうした映画好きを増やすためにも、名画座を復活させたいですね」
また、洋画専門の地上波テレビ局を開局できればと、夢も膨らます。
「MPA(モーション・ピクチャー・アソシエーション/アメリカ映画協会)で、地上波を一局運営できたら最高ですね。実際は電波法で外資系企業が10%以上の株を持ってはいけないと定められているので、それは認められていません。でも、仮にMPAがテレビ局を持ち、『LOST』や『セックス・アンド・ザ・シティ』をゴールデンタイムで放送したら、視聴率を取れると思うんです。そこに洋画の特番をどんどん入れたらどうなるか。そうなって、はじめて邦画といい勝負をできるんじゃないかと。まあ、ない物ねだりですけど」
そんなソニー・ピクチャーズは、今年、これまでの年間興収記録162億円の更新がかかっている。10月末時点での興収は約120億円。「本来なら、『天使と悪魔』と『ターミネーター4』の2本で、とっくに抜いていなければいけなかった」と佐野氏。「でも、世の中よくできていて、代わりに『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』が出てきました。これは公開12日間で興収21億円を超え、公開期間も当初予定の2週間限定から、4週間に延ばしました。少なめに見積もっても、興収32〜33億円はいくと思います」と言う。こうなってくると、どこまで記録を伸ばせるかにも期待がかかる。その重責を担うのが『2012』だ。最後にこの映画の魅力を、改めて語ってもらった。
「まずは、この作品がハリウッド映画の入門編であることです。嬉しいことに今、毎週火曜日にアメリカから、市場調査の結果が送られてくるのですが、『2012』が一番響いているのが日本の調査。13歳から17歳という1番洋画を見ない世代が、この映画に注目しているという結果が出ていて、すごく期待しています。それにまた、これは、邦画には作れない桁外れのスケールの映画であり、まずはそこに興味を持ってもらえている。加えて、日本人は知的欲求が強く、マヤ文明のような謎めいたことが好き。その辺も日本の若者に受けている理由だと思います。
そしてもう1つ、ディザスター映画であるよりも前に、人間ドラマであることも大切です。僕はよく、大ヒットの条件として『ハラハラ、ドキドキ、ワクワク、シクシク』という4つの『ワンワン用語』を挙げるのですが、『2012』には、この4つがすべて揃っている。4つが全部揃うのは本当に久しぶり。だから今、僕自身がこの映画の公開を、ワクワクして待っている最中です」
(テキスト:安部偲)
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