将来に対する漠然とした不安を胸に、今を精一杯生きたいと願う若者たちの姿を描いた『ソラニン』。浅野いにおの人気コミックを映画化した青春音楽ストーリーだ。
主演は宮崎あおい。亡き恋人の思いが綴られた歌に新たな希望を見出し、人生を切り開こうとする主人公と、バンド仲間や親友、親たちとの交流が、繊細なタッチで綴られていく。
監督は三木孝浩。YUI、ORANGE RANGE、木村カエラ、FUNKY MONKEY BABYS、いきものがかりなどのプロモーションビデオ(PV)を手がけ、高い評価を得てきた彼にとって、本作は初の劇場作品となる。
──今まで数多くのPVを手がけてきたわけですが、劇場用映画の監督は、また違うものでしたか?
三木:違いましたね。撮りながら気づいたことがあります。PVは、短い時間の中でどこまでイメージを膨らませるかという瞬発力が重要。でも映画は、2時間という長い尺の中でペース配分を考えながら、主人公たちの気持ちを積み上げていく構成力が大事。100メートル走とフルマラソンくらいの違いを感じました。
それから、PVの映像表現は、様々なものをプラスしていくことが多い。一方、映画は、物語を理解してもらうために、いらないものをそぎ落としていく引き算の演出が必要。そこも、大きく違うところでしたね。
──人生を探しあぐねている主人公・芽衣子。そしてその恋人で、音楽での成功を目指しはじめる青年・種田。誰もが通り過ぎる青春模様にも思えますが、監督自身も似たような体験が?
三木:そうですね。大学時代は、こんな風にフワフワした感じの時期がありました(笑)。
──監督する上で、どんなメッセージを若者たちに伝えたいと思いましたか?
三木:主人公たちが置かれているような停滞している時期というのは、意外と幸せなんだよ、と。そして、その時期を大切にしてほしいと思うんです。
この時期、何が辛いって、やるべきことを決めなきゃいけないことが一番辛いんですよね。若い頃って、何でもできるし、何にでもなれると思っているものだけど、段々時間が迫ってきて、選択肢が限られてくる。そして、ある地点で1つの道に絞らなければならない。選択肢をなくすということは、すごく痛みを伴うことだと思うので、ぜひその手前のモラトリアム期間を大切にしてほしいな、と。
ただ、若いとそんな風には思わないものですよね。みんな何かしら悩みを抱えていて、「死にたい!」と思うくらい悩んだりしている。大人になってみれば、それは大した悩みじゃないって分かるんですけどね。
──宮崎あおいさんは、ギターの弾き語りなど、本作で本格的に音楽に挑戦しています。音楽面では未知数の彼女をキャスティングすることに不安はありましたか?
三木:もちろん、どんな声なんだろうとは思いましたけど、不安というよりはむしろ楽しみでした。この役は、歌で感情の変化を伝えるという繊細な演技が要求されます。だから、宮崎さん以外はありえませんでした。
──宮崎さんご自身は、歌に不安を持っていたのでしょうか?
三木:はい、不安だったとおっしゃっていました。でも、彼女が感じるプレッシャーやドキドキ感は、主人公にも通じる部分があって、それがうまくお芝居に出るといいなと思っていたのですが、とてもうまくいったと思います。
──サンボマスターの近藤洋一さんが、バンド仲間の加藤を演じています。これはやはり演奏シーンに真実味をもたせるためですか?
三木:キャスティング時にこだわったのが、ベースとドラムのリアリティです。ベースとドラムって、経験者とそうじゃない人が分かってしまうんですよ。そこにウソはつきたくなかったんです。
桐谷(健太)くんについてはドラム経験があることが決め手でした。近藤くんは、原作の加藤というキャラクターを見た時点で、もう近藤くんにしか見えなくて(笑)。
──高良さんのキャスティングはいかがでしょうか?
三木:最初は硬派なイメージがあったのですが、でも実際にはとてもナイーヴな人で、声がすごくいい。想像していた「種田」の声だったんです。それから、高良くんは原作のファンでもあったので、種田を高良くんにお願いして、本当に良かったと思います。
──人気マンガを映画化することにプレッシャーはありましたか?
三木:ありましたね。特に演奏シーンがあって、音楽が流れるので。マンガを読んでいる時点では、それぞれが想像している部分を具現化してしまうわけですから。でも、それこそが映画の魅力。映像化することで、臨場感や感動を表現したいなと思って作りました。
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