『her/世界でひとつの彼女』スパイク・ジョーンズ監督インタビュー

唯一無二の個性的世界を紡ぎ出す人気映像作家が語るスカーレット・ヨハンソンの魅力とは?

#スパイク・ジョーンズ

サマンサ(人工知能)が主人公の心や精神のなかにだけ存在するというアイデアが好き

革新的な視点で高い人気を得る映像作家、スパイク・ジョーンズ。その最新作は、AI(人工知能)が創り出した女性に恋してしまった男・セオドアの物語だ。

“彼女”の名前はサマンサ。ユーモアに溢れ、純真でセクシーで、誰よりも人間的だが、彼女との関係は会話だけ。決して触れることはできない女性に真剣に向き合い始めたセオドアとサマンサの“恋”を通じ、愛の形を真正面から問いかける。

本作でアカデミー賞脚本賞を受賞したジョーンズ監督に、本作について語ってもらった。

──本作を作ったきっかけは?

監督:元々は、10年くらい前に、アーティフィシャル・インテリジェンス(AI)とインスタント・メッセージのやり取りができるサイトを偶然見つけたことがきっかけだったんだ。そのサイトに行って、例えば僕が「ハロー」って書くと、「ハロー」って返事がくるんだよね。「元気?」「元気です。あなたは?」「うーん、僕は少し疲れてるかな」というような感じでちょっとしたやり取りができたんだ。それで、そのときに、「ワォ、本当に会話しているよ! 僕の言ってることを本当に聞いてくれている」という衝撃があったんだよね。
 だけど、その会話はすぐに崩壊してしまって……。簡単なやり取りはパターンとしてシステムされているけど、実際それほどの知能があるわけではないことが分かるんだ。それでも、やっぱりかなり賢いプログラムだとは思ったんだよね。その後、しばらくしてから、ある男が完璧な意識があるそういう存在と恋愛関係を持つようになるという物語を書いたらどうだろう、と考え始めたんだ。それで、そういうものと恋に落ちて恋愛関係を持つ様になったらどうなるのか?ということを考えてみたんだ。最終的には、それを通して、恋愛関係とラブストーリーを描いた映画を作りたいと思ったんだよね。

撮影風景
Photo courtesy of Warner Bros. Pictures/Photo by Merrick Morton

──本作を作るうえで参考にした作品はありますか?

監督:この脚本を書いている間に見ていた映画のひとつが、『ウディ・アレンの重罪と軽罪』(89年)だったんだ。あの映画の脚本は本当にあり得ないくらい素晴らしく書けていると思ったからね。とてもインスピレーションを得られたよ。

──人工知能が作り出した“女性”サマンサは、声だけの存在です。コンピュータやスクリーン上でアバターにしなかったのはなぜですか?

監督:サマンサは存在するけど、彼(セオドア)の心や精神のなかにだけ存在するというアイデアが好きだったからなんだ。

スカーレット・ヨハンソンは、見えても見えていなくても、本当に存在感がある
──主人公のセオドアをホアキン・フェニックスが演じています。素晴らしい演技ですね。
撮影風景
Photo courtesy of Warner Bros. Pictures/Photo by Merrick Morton

監督:彼は、演技をするときに自分の持っている知識を使って役にアプローチしたりしない。彼は、常に暗闇のなかを歩き回っているような感じで、自分が何をやっているのか分からず、いつだってナーバスになっているんだ。それを傍で見ているのは中々恐ろしいものなんだけどね。でも、彼はその恐怖感を常に持っているからこそ素晴らしい役者なんだと思う。彼は、「うん、僕にはこれが分かっているし、やったことあるから簡単だ」という感じでは絶対にない。自分にはそれができると思っている瞬間というのがまるでないんだ。そして、何かを分析して演技をすることがまったくないんだ。
 彼に演技について質問すると、どうやって演技をすればいいのか本当に分からないと答えるはずだ。彼は、謙虚でそう言うのではなくて、本当に分かってないんだと思うよ。

──サマンサは、スカーレット・ヨハンソンが声だけの出演で演じていますが、とてもパワフルです。彼女についてはいかがですか?

監督:彼女は、見えても見えていなくても、本当に存在感がある人だと思う。映画を見ている人は、彼女を感じることができると思うんだ。彼女の持っている存在感は、否定しようもないと思うよ。

──サマンサのキャラクターはとても魅力的ですが、どんな風に役を作っていったんですか?
来日イベントでのスパイク・ジョーンズ監督

監督:ひとつ言えるのは、サマンサにとっては、この世界はすべて真新しいものであるということなんだ。彼女のキャラクターはまるで子どもみたいな感じで、不安や自信喪失をまだ知らないんだよね。だけど、そういうことを映画が進むなかで学んでいく。彼女がすごく苦痛を感じる状況に陥ることで、自信を喪失していくんだ。それで、スカーレットと初めて仕事しているときにそういうことを話したんだけど、彼女はそのとき初めて、この役を演じるのがどれだけ難しいことになるのか理解したみたいだ。つまり彼女自身が、不安のようなものをまるで感じないまっさらな場所に戻らなくてはいけないわけだからね。

──MTVの演出やミュージックビデオの監督を経て、『マルコヴィッチの穴』(00年)で映画監督デビューしたわけですが、“スパイク・ジョーンズ”らしい映画作りが難しくなっていると感じることはありますか?

監督:上手く答えられるか分からないけど、唯一の方法は、たぶん色々なことに挑戦しながら失敗をおかすことじゃないかと思うよ。その過程で、これはあまり自分らしくなかったと思ったり、その代わりに違うものに挑戦して、うん、これは本当に僕らしいなぁと感じたりね。それで、そういう間違いのなかから本当の自分をより表現してくれているのは何なのかを学ぶんだと思うんだ。他の人がやっているようなことをして、自分ではない人になろうとするのではなくてね。

スパイク・ジョーンズ
スパイク・ジョーンズ
Spike Jonze

1969年10月22日生まれ。アメリカのメリーランド州出身。スケートボードのフィルミングやフォトグラファーとして活動を始め、その後、MTVの演出やミュージックビデオ監督として活躍。『マルコヴィッチの穴』(99年)で映画監督デビューするや、アカデミー賞監督賞にノミネートされた。『アダプテーション』(02年)でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞。初の単独脚本をつとめた本作でアカデミー賞脚本賞を受賞。その他、『かいじゅうたちのいるところ』(09年)も監督。また『ヒューマンネイチュア』(02年)、『脳内ニューヨーク』(08年)の製作もつとめ、テレビ番組および映画版の『ジャッカス』シリーズの製作陣にも名を連ねている。

スパイク・ジョーンズ
her/世界でひとつの彼女
2014年6月28日より新宿ピカデリーほかにて全国公開
[監督・脚本]スパイク・ジョーンズ
[出演]ホアキン・フェニックス エイミー・アダムス ルーニー・マーラ オリヴィア・ワイルド スカーレット・ヨハンソン
[原題]her

Photo courtesy of Warner Bros. Pictures/Photo by Merrick Morton