ああ、なんて麗しい人なんだろう! 忘れられないあの衝撃。あれは1996年のこと、『愛のめぐりあい』(96年)を映画館で見ていたとき、第1話「ありえない恋の物語」でイタリアの静かな街を歩く長身の美男美女の男のほうに筆者の目は釘づけに! ギリシャ彫刻+若き日のアラン・ドロンのようなこの人は誰? 彼こそが若き日のキム・ロッシ・スチュアート、ありえないほどに絶世の美青年だった。
・[動画]イタリア映画傑作選『Viva! イタリア』予告編/ハートの問題
当時のパンフレットによると、“父はイタリア系スコットランド人の俳優で母はドイツとオランダの血を引くモデルであり、「イタリア映画界の新しい貴公子」としてティーンを熱狂させている人気者”だという。日本のティーンをちょっとだけ過ぎた若き乙女(?)だった筆者のハートは鷲掴みにされ、キム様目当てに何度も鑑賞、第1話の叶わぬ恋が美しすぎて、第4話にフランスの色男ヴァンサン・ペレーズが出ていたこともすっかり忘れていたほどだった。
その前年に撮影された『アパッショナート』(94年)では、アンナ・ガリエナに恋い焦がれる心に病を抱えた青年を演じていて、キム様は演技力も繊細で素晴らしいのだなあと感動したものだ。その後も『ピノッキオ』(02年)や『家の鍵』(04年)などの作品でも彼を見ることができるけれど、ハリウッド俳優のように頻繁にスクリーンやメディアで見られないのが残念。こんなに麗しいのに。
そんなキム・ロッシ・スチュアートが久々に日本のスクリーンに登場!「Viva!イタリア」と題して公開されるイタリア映画傑作選のうちの1本『ハートの問題』に、家族思いの自動車修理工アンジェロ役で主演しているのだ。タイトルの「ハート」は文字通り「心」であり「心臓」のこと。同じ夜に心臓発作で手術を受けて同じ病室に入院したアンジェロとアルベルト(アントニオ・アルバネーゼ)という2人の中年男が病室でしゃべっているうちに意気投合し、退院後もそれぞれの人生の問題に直面しながら交流を続けるという物語だ。
面白かったのが、手術後にベッドに寝たままでアンジェロに話しかけていたアルベルトが、2人を隔てていた衝立がはずされた瞬間、「何ともいい男だ」と驚くシーン。そりゃあ、隣の病人がこんなに男前だったら誰だって驚くでしょう。中年になって年相応になったとはいえ、こんなセリフを入れなければ不自然なほど、手術後の患者役でも彼の美貌は隠しきれないのだった。そんな褒め言葉に対して、一瞬間をおいて「でもあんたもだよ」というキム様の瞳が素直なのがまた魅力的だ。見目麗しいだけじゃなくって性格もいいのね、と目がハートになってしまう。
それはさておき、アンジェロはちょっとした実業家で愛妻のお腹には3人目の子がいるという幸せ者、一方のアルベルトはスランプに陥っている脚本家。入院でもしなければ知り合うことのなかった2人が、退院後はおそろいのトレーニングウェアを着てウォーキングに勤しむ姿がほほえましい。家庭も貯金もないアルベルトを手助けしようとするアンジェロだが、しだいに彼は自分の病が回復しないと感じて絶望に陥る……。
あの世へ旅立つには若すぎる年齢で死を意識しなければならないというのは、どれほどつらいことだろう。けれども、そのつらさのなかに閉じこもってもいられない。日々の仕事、生活、税金問題などと雑多な事柄に追われて時間は過ぎていってしまう。アルベルトとアンジェロの男同士の会話がコミカルながらも、はかなく貴重な一生について考えさせられる良作だ。キム様目当てで見たけれど、思いがけず心にしみいる作品に出合えてよかった。(文:秋山恵子/ライター)
『ハートの問題』は6月29日よりヒューマントラストシネマ有楽町にて公開中。
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