度重なる上映中止を求める活動により、一時は、東京、大阪の合わせて3館が上映中止に追い込まれた『ザ・コーヴ』。イルカ保護の立場から日本のイルカ漁を描いたこの映画が、紆余曲折を経て7月3日に無事初日を迎えた。
今年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー部門に輝くなど、世界的な評価を受けながらも、映画の舞台となった日本では上映が危ぶまれる事態に。その最中に来日したのが、本作に出演しているリック・オバリー。1960年代、日本でも放映されたアメリカの人気ドラマ『わんぱくフリッパー』でイルカの調教師(兼俳優)を務めたが、そのうちの1頭であるキャシーが死んでしまったことから、一転、イルカ保護を訴え活動を開始、今日に至っている。
そのオバリーに、日本で起こっている上映中止活動のことから、映画に関する思いまでを語ってもらった。
──この映画は、「反日的だ」といった形で上映中止を求める運動が起こっています。そのことについて、どう思われますか?
オバリー:今回起こっていることは、民主主義への冒涜だと思います。日本の方々の権利が奪われていると。そう思えて仕方ありません。日本はあくまでも民主主義国家で、北朝鮮やキューバではないのです。だからこそ、人々の権利が奪われるのはおかしいことだと思います。この作品に関しては、アカデミー賞を含め、ドキュメンタリー映画としては過去最多の受賞歴を上回るほどに評価されています。それは、作品が非常に優れているからこそのを評価で、その1点に絞っただけでも、日本人はこの作品を見る権利があるし、見てもらうべきではないかと考えています。
──日本での上映に当たって、こうした上映中止活動が起こることは予測していましたか? また、ご自身が来日することによって、どんな変化をもたらすことができると思いますか?
オバリー:日本は民主主義の国ですから、このようなことが起こることはまったく予想してませんでした。私が来日した大きな理由の1つとして、日本の方々にこういう(映画にまつわる)情報を提供して、こういうことが起こっていると理解していただき、劇場に電話をかけて、「この映画を上映する機会を、我々に与えて欲しい」と訴えていただくような、何らかの運動や活動を起こしていただくこと。そういうことが起これば好ましいと思っています。
──その手応えは?
オバリー:明らかに成功していません。上映に反対する右翼団体は、実際、配給会社社長の自宅に訪れたりしているわけです。これは明らかに個人への攻撃で、テロリズムでもあると考えます。
──日本のイルカ漁を描いた作品が、日本で上映されないのは問題だと思います。オバリーさん自身はどう思われますか?
オバリー:先ほども言ったように、上映のためには、日本の方々に直接訴えていただくことが一番理想的だと思っています。実際、日本国憲法21条において言論の自由は確保されているわけですが、それが今、踏みにじられている。日本人がもし、これに対して行動を起こさないというのであれば、実におかしいことだと思います。
──撮影に当たって、町役場と漁協の人と2日間に渡って交渉したと聞いています。それは事実でしょうか?
オバリー:そういう働きかけは確かにありました。市長をはじめ、漁業組合の方々、漁師の方々に映画への参加を求めましたが、結果的には拒否されました。今になって、「まったく彼らの視点が映画のなかに取り込まれていない」という批判があるようですが。
──それで、次に取った方法が隠し撮りだった?
オバリー:フィルムメーカーたちが結果的にその方法を選んだのには理由があります。というのも、(イルカを追い詰めて殺す)入江の近辺はフェンスやバリケードで囲まれているわけです。まず、言っておきたいのは、あの場所は国立公園なわけで、決して私有地ではないことです。しかも、塞がれている通路は、津波の避難路として指定されている場所。そこにバリケードやフェンスなどを築くことこそ違法なのではないのかという疑問があります。誰も、そのことについて触れてくれませんが、そういう疑問点もあるということをご理解いただければと思います。
──最後に、食用として牛や豚を殺すことと、イルカを殺すことと、オバリーさんのなかではどのように違うのかを教えてください。
オバリー:それは正直、比べられることではないと思います。まず──、大きな違いは家畜動物と野生動物の違い。その点で大きな違いがあります。また、生態的に見てもイルカは、人間と同じくらい大きな頭脳を持っていること。ですから、ブタなどと比べるべきものではないのではないでしょうか。
『ザ・コーヴ』は全国順次公開中。
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