製作段階から3部作と決まる日本映画初の試みで、総製作費が60億円という破格のスケールも話題を呼んだ『20世紀少年』。その完結編となる『20世紀少年<最終章>ぼくらの旗』が、ついに幕を開けた。
昨年8月30日に封切られた『20世紀少年<第1章>終わりの始まり』が興収40億円。今年1月31日公開の『20世紀少年<第2章>最後の希望』が興収30.1億円と、メガヒットを記録してきた同シリーズ。謎が明かされ完結する今回は、これまで以上の興収が期待できそうだ。
そんな『20世紀少年』を生み出したのが、日本テレビの映画事業。日本映画最高の興収を記録した『千と千尋の神隠し』をはじめ、スタジオジブリ作品では見事な成績を残すものの、実写映画では苦戦を強いられていた。その日本テレビが、なぜ実写映画でも強くなり、『20世紀少年』を生み出すに至ったのか。その道のりと、映画作りのこだわりについて、同社映画部門エグゼクティブプロデューサーの奥田誠治氏に語ってもらった。
巨大なライバルに打ち勝ち、映画化権を獲得
冒頭にも記した通り、『20世紀少年』は製作段階から3部作であることが決まっていたシリーズ映画だ。通常、シリーズものは1作目のヒットを受け、続編製作を決定するのが一般的。これなら、1作目の成績をベースに、ある程度の興収見込みも立つからだ。だが、最初から3部作となると話は別。1作目がハズれれば、2作目以降も共倒れとなる危険性を伴う。にもかかわらず、日本テレビはなぜ3部作としたのか? その始まりは、2002年にさかのぼる。
「日本テレビの実写映画を成功させようということで、社内で企画募集をしました。当時は、ジブリ作品は大ヒットするけど、ほかはダメという状況でした。これに対し、弊社の氏家(齊一郎)CEO・会長(現会長)から、実写映画も強くするようダメ出しが入った。そのこともあっての社内公募で、集まった企画は150本くらい。この中から、トップで選ばれた企画が『20世紀少年』だったのです。その頃から、映画化するなら『ロード・オブ・ザ・リング』のような3部作構成にしないと、内容が収まりきらないとは考えていました」
実際に、映画化権獲得のコンペティションが行われたのは2003年〜2004年にかけて。最終的には日本テレビ1社と、大手の映画会社・テレビ局・出版社・制作プロダクションなどが手を組んだ強力な連合軍との一騎打ちになったという。
「うちの窓口で戦っていたのは、2人のプロデューサーだったのですが、相手は巨大な連合軍。それだけに、『映画化権が取れました』と聞かされたときは、みんなで万歳三唱しました。フロア全員でね(笑)」
奥田氏曰く「竹槍でB-29を突き落とした」ようなもの。決め手となったのが思いの丈が詰まった企画書だ。
「今でもよく覚えているんですが、『ロード・オブ・ザ・リング』はハリウッドで成功した素晴らしい作品だけど、僕らはこの原作で、『ロード・オブ・ザ・リング』以上のものを作りたいんだという心意気に溢れていた。企画書というよりも、むしろ決意文のようでした」
3年かけて実写映画を強化
ここで簡単に、2002年〜2004年の日本の映画界を振り返ってみよう。今でこそ、邦画が洋画よりも支持されているが、当時はまだ洋画が邦画を圧倒。邦画のシェアは洋画の30〜40%に過ぎなかった。そんな時期に邦画を引っ張っていたのが、ジブリや『ポケモン』に代表されるアニメ映画と、『踊る大捜査線』シリーズを大ヒットさせるなど、ヒット作を連発してきたフジテレビだった。
「ところが日本テレビの場合は、先ほども触れましたがヒット作はジブリ作品ばかりで、実写映画が弱かったんです。その頃、事業部内にコンテンツ事業推進部という部署があり、3か年計画を中心にすえコンテンツの可能性を模索していました。そこで、映画でも同じことをやろうという話になり、日本テレビオリジナルムービー、通称“NOMO企画”というプロジェクトを立ち上げたんです。ちょうどメジャーリーグで野茂英雄さんが活躍していた時期で。後日、野茂さんの代理人をしていたダン野村さんにお会いしたら、『NOMOって名前を使ってましたね』と言われました(笑)。
ところが、2003年に公開した1本目の映画『巌流島』が失敗に終わってしまい……。結局、NOMO企画の名はこの1作で終了とし(笑)、自社幹事作品として、その次の黒木瞳さんと岡田准一さん主演の『東京タワー』が大成功し、以降、『デスノート』シリーズや、『ALWAYS 三丁目の夕日』といった、ヒット作が続々と生まれるにようなっていきました」
『20世紀少年』の企画が進行していたのは、ちょうどこの時期だ。「大きく当たる作品と、手堅く成功する作品がうまく回り始めた頃で、その大きな作品の第1弾が『20世紀少年』でした」と奥田氏。だが、大作ゆえに、超えなければならないハードルも数多かった。
「まずは、僕らが3部作にしたいと言っても、会社がOKしなければ始まらない。そこで、社内の映画決定機関をクリアすることが必要だったし、ほかにも、どういう体制で作っていくのか? 配給はどうするのか? 公開の時期はどうするのか? どんな脚本にし、監督は誰で、製作プロダクションをどこにお願いするかなど、やらなければいけないことは山ほどありました」
最終的に監督が堤幸彦氏、製作プロダクションがシネバザールとオフィスクレッシェンドの2社に決まったのは2006年のことだ。さらにキャスティングが、原作のイメージに近い人というコンセプトのもとに進められていく。このキャスティングで、最後まで残ったのがカンナ役だった。
「カンナ役はオーディションで選んだのですが、本当にガチンコで。最終的に決まったのが平愛梨さん。僕も審査員をしていたから、よく覚えているけど、彼女は長い髪を切って、原作のまんまのスタイルでやってきたんです。このオーディションに受からなかったら芸能界を辞めようと決意していたんですね。その思いや、『カンナ役を全身全霊をかけて演じたい』という強い気持ちが、審査員みんなにひしひしと伝わってきました。一緒に審査員をしていた(原作の)浦沢直樹さんは、彼女がオーディション会場に入ってきた瞬間「カンナが来た!」と思ったそうです。演技がうまい人ならほかにもいたけど、彼女がカンナ役に真っ直ぐに挑んでくるのを見て、彼女しかいないというのが、全員一致の見解でした」
失敗から学び、人の輪を築き上げて成功をつかむ
こうして誕生した『20世紀少年』が大ヒットしたのは、前述の通り。だが、ここ数年の日本テレビは、NOMO企画以降の自社幹事作品が功を奏してか、『20世紀少年』のみならず、他の実写映画でも絶好調だ。
まずは興収32.3億円を上げた『ALWAYS 三丁目の夕日』と、45.6億円で2007年公開の邦画3位を記録した『ALWAYS 続・三丁目の夕日』。『デスノート』も、『前編』が28.5億円、後編の『the Last name』が52億円と大ヒット。スピンオフ(番外編)として作られた『L change the WorLd』も31億円を記録するなど、メガヒットを連発している。興収10億円がヒットの目安、20億円で大ヒットといわれる全国公開映画の中で、この成績は見事の一言。今年も『ヤッターマン』や『ごくせん THE MOVIE』など、すでに3作品が興収30億円を超えている。こうしたヒット作を生み出す秘訣として、奥田氏が口にしたのが「人の輪」の大切さだ。
「『デスノート』はワーナー・ブラザースが、気持ちよく配給を引き受けてくれたことが成功につながったと思います。ですがその前に、ワーナーとは一緒に組んだことがありました。それが東芝、ワーナー、日本テレビの3社で作った映画会社トワーニだったんです。トワーニでは、『キューティーハニー』など4本の映画を作りましたがヒットに恵まれず、結局、発展的解消をしたのですが(笑)」
だが、このトワーニでの経験があったからこそ、人の輪が広がっていき、失敗の中から、ワーナーのようなアメリカに本社があるメジャースタジオの日本法人と組む場合に、何が大切かを学ぶことができたという。
「あの経験がなかったら、『デスノート』もどうなっていたかわかりません。制作会社のROBOTと組んだ『三丁目の夕日』だってヒットしましたが、その前には同じROBOTと一緒に作った『明日があるさ THE MOVIE』で体験した失敗がある。僕の場合、結構、失敗だらけで(笑)。大切なのは、そこから何を学び、どうやって人の輪を築き上げていくかではないでしょうか」
そんな奥田氏が、映画作りで大切にしているのが、末永く残る作品を生み出すこと。
「僕はもともと、『金曜ロードショー』とスタジオジブリの製作の仕事に携わっていて、ジブリの質と興行、両方を兼ね備えた映画作りの姿勢をずっと見てきましたし、影響も受けてきました」
『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』をはじめとするジブリのアニメ映画は、それぞれ2年おきに「金曜ロードショー」で放映され、20年の時を経た今もなお、輝きを失っていない。
「だからこそ、時代を超えて残る作品を作りたいと思っているんです。映画は、著作権が残り続ける70年もの間、会社のライブラリーにもなるし、テレビ放映などの形で利益を生み続けていけるもの。それに映画って、見る人の人生を変えたり、希望を持ってもらえるものでもあるでしょう。その瞬間だけ面白ければいいというスタンスではなく、時代を超えて愛される映画作りを目指していきたいですね」
(テキスト:安部偲)
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