【週末シネマ】新作なのに懐かしい。NYインディーズ映画の雄ハル・ハートリーとの再会

『はなしかわって』
(C) POSSIBLE FILMS
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『はなしかわって』

ハル・ハートリーという名前に反応するのは、いま40代以上の世代だろう。90年代に『シンプルメン』(92年)、『愛・アマチュア』(94年)などを発表し、日本でも人気を得たニューヨークのインディペンデント映画界を代表する監督の1人だった。

[動画]『はなしかわって』『アンビリーバブル・トゥルース』 『シンプルメン』『愛・アマチュア』予告編

2000年代も活動を続けながら、作品の日本公開が途絶えていた彼の最新作『はなしかわって』(11年)が久々に公開される。

主人公はマンハッタンに暮らす中年男・ジョセフ。本業はジャズ・ドラマーだが、映画俳優やプロデューサー業もすれば、小説も書き、ネット広告映像も制作する。眉間に皺を寄せた強面の大男だが、威圧感はなく、恋多き様子も伝わってくる。携帯電話やクレジットカードを止められて、ブリーフケースを片手に街を歩き回りながら、地球に優しいエコ窓のセールスに励み、通りすがりに困った人を見つけると手を貸し、ドラマーのオーディションを受け……と器用貧乏のまま、いい歳になってしまった心優しい男がふとした瞬間に逡巡をしてみては、また飄々と歩き始める。そんな姿を59分間にまとめた本作は、ハートリーにとって5年ぶりの作品でもある。

新作なのに、“懐かしい”という印象が先に立つ。物事の捉え方、登場人物たちの交わす会話、すべてのスタイルがあの頃と変わらない。冒頭に登場する少年体型の小柄な少女の立ち居振る舞いは、かつてのハートリー映画のヒロインで、強盗殺人の被害者という悲劇的な最期を遂げたエイドリアン・シェリーを思い出させる。三つ子の魂百まで、とはこの感じだろうか。フィルム撮影ではなくなったことで、異様に明るく鮮明な映像だからだろうか、かつて軽やかに感じたその演出が妙に生々しく迫ってくる。

今回は併せて1988年の長編第1作『アンビリーバブル・トゥルース』、『シンプルメン』と『愛・アマチュア』も公開される。特に『ニューヨークラブストーリー』のタイトルでビデオ発売のみだった『アンビリーバブル〜』をスクリーンで見られる貴重な機会だ。十代のヒロインを演じたエイドリアン・シェリーの妖精のような美しさとハートリーの大学の同期生で初期作の常連だったロバート・バークの寡黙ないい男ぶりに、登場人物たちのオフビートな台詞のやりとり、効果的な音楽など、ハートリー映画の真髄がすべてそこにある。男と女の関係を、余分なものを削ぎ落してシンプルにクールに描く。いま再び、ハル・ハートリーの世界を探訪してみるのも一興だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『はなしかわって』は1月25日より新宿K’s cinemaほかにて公開。ハル・ハートリー監督の作品を集めた特集上映「Hal is Back! Hartley」は現在公開中。

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