ローリング・ストーンズ、アレサ・フランクリン、ポール・サイモン、ボズ・スキャッグス、ウイルソン・ピケット、オールマン・ブラザーズ・バンド、レーナード・スキナード、ボブ・ディラン、パーシー・スレッジ、ジミー・クリフ……。そんな名前に少しでもピンとくる人にご覧いただきたいのが、現在公開中の音楽ドキュメンタリー『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』だ。
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2002年の『永遠のモータウン』を皮切りに、『トム・ダウド/いとしのレイラをミックスした男』や『バックコーラスの歌姫たち』など、このところポピュラー音楽のドキュメンタリーにはアーティスト本人ではなくてバックミュージシャンやエンジニアなどの裏方にスポットを当てた作品が増えている。本作も、米アラバマ州にあるマッスル・ショールズという小さな町に建てられたレコーディングスタジオとその創設者を主人公としている点で、これらに連なるドキュメンタリーと言っていいだろう。
マッスル・ショールズという土地や、フェイム・スタジオ/マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオという2つのレコーディングスタジオ、そしてその創設者であるリック・ホールの名前を知っている人は、ソウルミュージックや60〜70年代ロックをかなり熱心に聴いている音楽ファンに違いない。本作はそれらにまつわるマニアックな史実を並べるだけでなく、「黒人と白人の音楽を通じた融和」という大きな視点に立ったドキュメンタリーになっている。黒人シンガーと白人のリックやバックミュージシャンが一丸となって次々にヒットを送り出した50年代後半から、そのサウンドに影響を受けたローリング・ストーンズら名だたる人たちがこぞってこの地を目指すようになった60〜70年代にいたるまで、マッスル・ショールズがいかにスピリチュアルな“理想郷”であったかが関係者の証言で浮き彫りにされていく(そのストーンズからはミック・ジャガーとキース・リチャーズ、それにU2のボノらがコメントを寄せている)。
そんな本作には、どこかケヴィン・コスナーの『フィールド・オブ・ドリームス』に通じるような、ある種のファンタジー性が漂っている。それはたぶん、ドキュメンタリーでありながら先述の「黒人と白人の音楽を通じた融和」という視点に“夢”が加えられているからだ。これが初監督作品となるグレッグ・フレディ・キャマリアはコロラド州で不動産業を営むアマチュア・ミュージシャンで、友人の引っ越しを手伝う途中でマッスル・ショールズに滞在。以前からこの地で録音された作品のファンだったらしいが、滞在中に改めてその魅力に気付き、ドキュメンタリーの制作を思い立ったという。つまり、キャマリア監督も作中に出てくるミュージシャンたちと同様、マッスル・ショールズという町に魅せられて、夢を託した一人であり、その思い入れが見る側にも伝わってくる作品に仕上がっているのだ。
ちなみにリック・ホールは長年の功績が認められ、今年1月にグラミー賞特別功労賞を受賞している。(文:伊藤隆剛/ライター)
『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』は全国順次公開中。
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