(…前編より続く)前編の冒頭でも触れたように、岩井俊二という人は監督だけでなく、原作や脚本、音楽までを手がけることで知られている。最近では北川悦吏子監督『新しい靴を買わなくちゃ』や、中国の映画監督と組んだ“純愛三部作”でプロデュース業もこなしているが、当コラムで注目したいのは、やはり音楽家としての顔だ。
1995年の初の長編『Love Letter』や96年の『PiCNiC』と『スワロウテイル』、2001年の『リリイ・シュシュのすべて』あたりまではREMEDIOS(シンガー・ソングライター、麗美の別名義)や小林武史が音楽を担当し、自身は『スワロウテイル』の主題歌「Swallowtail Butterfly〜あいのうた〜」の作詞などを共作するに留まっていたが、『花とアリス』の頃から自身で作曲も担当するようになっている。
・【映画を聴く】岩井俊二率いる“ヘクとパスカル”の音楽も要チェック! 『花とアリス 殺人事件』/前編
現在、音楽家としての岩井俊二が活動のベースとしているのは、3人組の“ヘクとパスカル”というユニットだ。メンバーはピアニストで作曲家の桑原まこ、シンガー・ソングライターで女優の椎名琴音、そして岩井俊二。昨年放送されたテレビドラマ『なぞの転校生』(岩井監督も脚本で参加)の主題歌「風が吹いている」でデビュー。セカンド・シングル「ぼくら」は、岩井監督の短編アニメ作品『TOWN WORKERS』の主題歌として書き下ろされたものだった。
そんな、ヘクとパスカルの最新作は『花とアリス 殺人事件』のサウンドトラック・アルバムである『fish in the pool』。これは『花とアリス』のサウンドトラック・アルバム 『H & Aの収録曲(岩井監督が全14曲の作曲を担当)をリアレンジしながら新曲6曲を加えたもので、全20曲を収録する。『H & Aに続き、今回もピアノや小編成の弦楽器によるインストゥルメンタルがほとんどだが、たとえば荻上直子監督の『めがね』(音楽:金子隆博)とか、先述の北川悦吏子監督『新しい靴を買わなくちゃ』(音楽:坂本龍一&コトリンゴ)の音楽にも通じるような、シンプルで控えめなのに的確に映像を引き立てる機能性と、映画と切り離して音楽だけ聴いても十分に味わい深い作品性が、うまくバランスしているのが魅力だ。
サウンドトラックのタイトル曲で、映画の主題歌でもある「fish in the pool」も、『H & A』に収録されていたピアノの小曲。今回の新録ヴァージョンでは、岩井監督が新たに歌詞を書き下ろしたヴォーカル曲となっているのだが、本編を後味よく締め括るとともに、後日譚である『花とアリス』への橋渡しとしても機能している。ワルツ・タイムの曲のせいか、『花とアリス』で印象的だったアリス(蒼井優)のバレエダンス・シーンに、見事イメージが直結する。邦画のサウンドトラックとしてはロングセラーを記録しているという『H & A』に続き、この『fish in the pool』も長く愛聴できる作品になりそうだ。
なお、ヘクとパスカルは3月22日、原宿ストロボカフェにて「ぼくら」と題したワンマンライヴを行なう。音楽家としての岩井俊二の現在形を知るためにも、足を運んでみてはいかがだろうか。(文:伊藤隆剛/ライター)
『花とアリス 殺人事件は2月20日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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