(…前編より続く)映画『イントゥ・ザ・ウッズ』には原作のブロードウェイ版と同じく、スティーヴン・ソンドハイムの楽曲とジェームズ・ラパインの脚本が使用されている。両者は作詞/作曲=ソンドハイム、脚本/演出=ラパインというコンビで1994年の『パッション』などのミュージカル作品を送り出しているが、ブロードウェイ版『イントゥ・ザ・ウッズ』こそ、そのコラボレーションの原点となる。
・【映画を聴く】『アナ雪』とは真逆! 斬新な物語&王道の音楽の絶妙なバランスで見せるディズニー新作(前編)
2人の共同作業によるマジックは、いきなり冒頭でピークに達する。その名も「Into the Woods」という約16分にもおよぶ楽曲は、パン屋の夫婦やジャック、シンデレラが次々に登場してそれぞれの“Wish(願い)”を見る者に説明するという作品の要約の役目を果たすものだが、、ここでの流れるようにスムーズな言葉とメロディの一致感は、ミュージカルとしてはメロディ偏重型に思える『アナと雪の女王』とはある意味で真逆。『アナ雪』でロバート&クリスティン・アンダーソン・ロペス夫妻が作り上げた「Let It Go」のような突き抜けるようなキャッチーさはない代わりに、古き良きミュージカルの旨味を改めて感じさせ、聴くほどに味わいが増してくる。
物語を前進させる劇中歌のなかでとりわけ印象的なのが、「No One Is Alone」だ。パン屋の主人とシンデレラが、赤ずきんとジャックに「誰もひとりではない」と歌いかけるこの曲には、“ポスト9.11のファンタジー”とも評される本作のテーマが端的に浮かび上がっている。同時多発テロから10年を経た2011年にオバマ大統領が遺族に語りかけた言葉がまさに「No One Is Alone」。ロブ・マーシャル監督はそれを聞いた瞬間、このミュージカルの映画化を思い立ったという。
そう考えれば、これまで“めでたし、めでたし”にこだわって作品を生み出してきたディズニーが、“人生それだけじゃない”というフェーズに立ったのも、時代の必然と感じられる。物語のフィナーレを飾るのは「Children Will Listen」という曲。明らかに大人に向けた警笛と思えるこの曲で締め括られる本作は、“大人のおとぎ話”として見ると同時に、“シリアスなメッセージ・ソング集”として聴きたい作品でもある。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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