(…前編より続く)この映画『スーパーローカルヒーロー』は、CDショップの店主であるノブエさんを題材にしているものの、純粋な音楽ドキュメンタリーではなく、“3.11以降の生き方”という前提に立った上で“音楽による人と人のつながり”を描いている。
ノブエさんは東日本大震災後、放射能汚染から家族を守るために移住してきた人たちを受け入れる支援活動を行なっており、そのための資金調達や移住先の確保のため、愛車のカブで街じゅうを駆け巡る。思い立ったらすぐ動く、というその行動力はとにかく半端ではなく、“動き出さないと何も始まらない”ということを背中で伝えながらも、押しつけがましさは微塵もない。資金が足りなければ身銭を切ることも辞さないその姿勢も、いたってカジュアルなのだ。
・【映画を聴く】音楽に愛される“謎のおじさん”が尾道を駆け巡る!『スーパーローカルヒーロー』/前編
そんなノブエさんは、2009年にバイト先の産業廃棄物処理場で足の指を切断する大ケガを負っている。この時にも「れいこう堂」は存続の危機に晒されたわけだが、それを知った縁のアーティストたちが彼を東京に招く形でライヴイベント『Nice Time,Nice Live,Nice Music』を開催。これはノブエさん本人が尾道で続けてきたイベントの名前をそのまま使ったもので、EGO-WRAPPIN’やハンバート ハンバート、Chocolat & Akito、オーサカ=モノレールら錚々たる顔ぶれが集まり、「れいこう堂」の支援を目的としたライヴを行なっている。
この時のライヴのほか、本作では尾道の向島洋らんセンターで行なわれている恒例の野外音楽会の演奏も見ることができる。畠山美由紀が故郷・気仙沼への想いを込めて「わが美しき故郷よ」を歌うシーンは、音楽ドキュメンタリーとしての本作のもっとも感動的なシーンのひとつだ。本作でノブエさんが駆け回ってきたことの意味がすべてここに集約されているような、それくらいの説得力を感じさせる。
「ノブエさんは月光仮面みたいな人。困ったことがあるとどこからかカブに乗ってやってきて、ありがとうを伝えようと思ったらもういなくなってる(笑)」
たくさんのアーティストや地元住人、東日本からの避難移住者がノブエさんの人柄についてコメントを寄せるこの『スーパーローカルヒーロー』だが、避難移住者の母親のこの言葉は、ノブエさんの人柄だけでなく、本作の制作されたきっかけをも端的に言い当てている。田中トシノリ監督は「このおじさんを知ってほしい」という一心で、1年以上に渡ってノブエさんを撮り続けたという。その思いは、本作に関わったすべての人に共通するものに違いない。で、ノブエさんの発するその大きな磁場は、この映画を見た人にも確実に広がっていく力を持っている。(文:伊藤隆剛/ライター)
『スーパーローカルヒーロー』は、3月21日より東京・新宿K’sシネマほかにて順次公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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