「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映像技術の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「吹き替え」
●オススメBlue-ray『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
この時期になると、ホームパーティーでどんな映画をかけたらいいのかと相談されることが多い。参加する人数や内容によって様々ではあるが、飲んだり食べたり、お子さんの面倒も見ながら、しかも明るい環境でとなると必ず推薦するのが洋画の吹替版である。「えっ?」と思われる方もいるかもしれないが、字幕を読まなくていいし、映像から目を離しても台詞は聴こえてくる。しかも意外や意外、相当の盛り上がりをみせるのだ。
吹き替えとは、主に外国で製作された映画の言語音声を、自国(他国)の言語音声に差し替えること。また役者の演技の一部を、別の人物(スタントマン等)が演じる代役(替え玉)という意味もある。日本における吹き替え音声は、テレビ草創期(50年代初頭)からの歴史を持っているが、古くは無声映画時代、芸達者な活動弁士(活弁)による語りも吹き替え芸術のひとつであった。
吹き替えは海外での公開用に、外国語で台詞を録音し直すのが一般的だが、歌えない俳優が歌わなくてはならない場面や、訛りの問題など様々な理由で行われることがある。『王様と私』(56年)のデボラ・カー、『ウエスト・サイド物語』(61年)のナタリー・ウッド、『マイ・フェア・レディ』(64年)のオードリー・ヘプバーンの歌唱場面が吹き替えられたことは有名だが(いずれもマーニ・ニクソン)、とりわけ珍しい例は『脱出』(45年)のヒロイン、ローレン・バコールの代役を歌手のアンディ・ウィリアムズがつとめたことであろう。
名作ハードボイルド『脱出』はバコールの映画デビュー作だが、実際の彼女の発声は早口で鼻にかかった声だったという。そこで監督ハワード・ホークスが、バコールに低音で深みのある喋り方をマスターさせることとなった。その結果、男性が彼女の代役で歌っても奇異な感じはなくなったという。
さてパーティー用の吹替版というとアニメーションは必須なのだが、今年は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をお薦めしている。ちょうど12月で(日本)劇場公開30周年を迎える本作だが、続けて第2作、第3作を見たくなるのは間違いない。その胸高鳴るお楽しみは、それぞれのご家庭に持ち帰ってもらうことにしよう。いちどお試しを!(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は1月8日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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