海外の賞レースで注目される『そこのみにて光輝く』のプロデューサーに聞く
●夢だった海外映画祭の受賞が実現
(…前編より続く)41歳で自死した函館出身の不遇の作家・佐藤泰志原作の同名小説を、綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉ら共演で映画化した『そこのみにて光輝く』。巨費をかけて製作された大作ではない本作が、第38回モントリオール世界映画祭において最優秀監督賞を受賞し、2015年2月に行われる第87回米国アカデミー賞で外国語映画賞部門の日本出品作品に決定した。本作のプロデューサーをつとめる星野秀樹氏に、海外映画祭受賞の裏話と受賞に懸ける思いを聞いた。
・作品力だけで勝ち上がり米国アカデミー賞日本代表となった小規模作、その快進撃の舞台裏/前編
受賞作品は、映画祭によっては受賞者にあらかじめ知らせることもあるが、モントリオール映画祭では星野氏をはじめ出席者にはまったく知らせは来なかったという。当日、星野氏は「もしかしたら……」と希望を抱き、監督や役者陣の受賞の瞬間を収めようとカメラ片手に授賞式に臨んだ。しかし、多数の部門の発表が次々と行われていくなかタイトルは呼ばれず、欠席した受賞者のコメントも挟まれると「やはり受賞者には前もって知らせがあるのだ」と思えてテンションはどんどんと下がり、終いには諦めて着席してしまった。
そんなときふいに本作の英語タイトルが呼ばれ、事態が把握できないままスポットライトを浴びての受賞となった。 手にしていた記録カメラを大慌てで準備したが映像はブレまくり、後で宣伝部に怒られたという受賞エピソードを、星野氏は目を輝かせて語ってくれた。
モントリオールの観客の反応は、星野氏が原作を読んだときと同じで物語のメインキャラ3人の魅力をそのまま感じ取ってくれていたという。伝わるかな……、と不安に思っていたことも意外と鋭く見抜いていて驚かされたそうだ。そして、3人を演じる役者たちにも観客は引き込まれていたのだとか。
星野氏はキャスティングするときはいつも“自分が緊張を強いられる役者”を念頭に置いている。それはいい役者のオーラであり、自分がビビるぐらいの雰囲気のある役者に魅了されるのだ。本作の綾野剛にしても、星野氏が参加した『夏の終り』でも仕事し、現場やプロモーションで何回も会っているにも関わらず、会うたびに心の中ではある種の緊張感があるという。そんな自分の肌で感じる感性を大切にしたからこそ、クオリティが高く、血の通った作品となったのではないか。それを観客が感じ取り、まるで登場人物が実在しているかのような感想が返ってくることがあると、非常に嬉しく感じると星野氏は言った。(…後編へ続く)(文:入江奈々/ ライター)
『そこのみにて光輝く』DVDは11月14日にリリース(セル豪華版DVD 4,800円+税/セル豪華版Blu-ray 5,800円+税/セル通常版DVD 3,800円+税/発売・販売元:TCエンタテインメント)。
・作品力だけで勝ち上がり米国アカデミー賞日本代表となった小規模作、その快進撃の舞台裏/後編
星野秀樹(ほしの・ひでき)
1971年4月30日生まれ、福岡県出身。東京都立大学大学院理学研究科を卒業後、自主映画製作に携わる。2001年にプロデュースしたインディーズムービー『Peach』がLAIFF in JAPANにて大賞を受賞、キノタヴル映画祭でも大賞を受賞する。その後、劇場公開作品を手掛け、プロデューサーおよびラインプロデューサーとして活躍中。主な作品は『ノン子36歳(家事手伝い)』『海炭市叙景』『四十九日のレシピ』『銀の匙 Silver Spoon』など。また、呉美保監督の『きみはいい子』が2015年に公開予定。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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