昨年4月から放映されたドラマ「怪物くん」が3D映画となって帰ってきた。幅広い世代にファンが多い藤子不二雄Aの代表作を嵐の大野智主演で実写化という大きな賭け(=企画)は、蓋を開けてみれば大正解。赤と青の帽子に大きな耳、半ズボン姿の大野をはじめ、見事に役に化けたキャストが繰り広げる冒険の物語は、人が生きていくうえで大切にしなければならないものを、笑いのベールで包みながら説教くささ抜きで視聴者へ伝えることに成功した。
・【週末シネマ】映画化でのアプローチには拍手を送るもヒロインの描き方には疑問
映画は、人間界から怪物ランドに戻った怪物くんが新大王就任式を迎えるも、エスカレートするばかりの彼のワガママに国民から大ブーイングを受けるところから始まる。すっかり拗ねてしまった怪物くんはお供の3人を連れて人間界に暮らす仲良しの姉弟を訪ねようと国を飛び出すが、途中、竜巻に巻き込まれた一行がたどり着いたのは「カレーの王国」だった。権力者に「伝説の勇者」ともてはやされ、反乱軍に捕らわれた王国の姫の救出を依頼される。報酬は「伝説のカレー」。日本にいる仲良しのウタコとヒロシに生き写しの王女と王子を助けた怪物くんたちは、王国の権力争いをめぐる陰謀に巻き込まれていく。
キーワードは「ワガママ」だ。怪物くんの傍若無人な振る舞いはまさにワガママそのもの。念力を駆使して無敵の勢いで巨悪に挑む怪物くんだが、「正義」とか「人のため」とは決して言わない。大好きなカレーを食べ損ねたから。ちんちくりんと言われた相手に悪口を言い返したいから。誰かのために行動を起こすのではなく、とにかく自分のやりたい放題を貫く。だが、結果として、それが救いになっていく展開に、「人を助ける」という行為について考えさせられるのだ。助けられる側が本当に救われる助け方、とでも言おうか。
誰かを助けようというとき、助ける側に無意識の押しつけがましさが出てしまうことはままあるが、怪物くんの行動は決してそうはならない。素直ではないが、相手にちゃんと伝わる優しさがある。それは作り手側が持つ、人助けについての哲学、美学に思えてくる。情けは人のため成らず。この諺の意味を「怪物くんのオレ様流」に解釈したら、こうなった──そんな印象を受けた。
『ちょんまげぷりん』『ゴールデンスランバー』の中村義洋監督がメガホンを取り、脚本はドラマから引き続き、2011年秋期の連続ドラマで高評価の『妖怪人間ベム』も手がける西田征史。お供役の八嶋智人、上島竜兵、チェ・ホンマンほか、松岡昌宏、川島海荷、濱田龍臣、稲森いずみ、鹿賀丈史らドラマのレギュラーも揃い、カレー王国の権力者役で上川隆也、反乱軍のリーダー役で北村一輝が出演。
撮影が行われたの東日本大震災前だが、「窮地に立たされた弱者を助ける物語」というものの受け止め方は、震災後の日本人の心のなかで微妙に変化している。この映画のテーマは計らずも企画段階よりもさらに数段、時宜を得たものに変貌したのではないだろうか。
『映画 怪物くん』は11月26日より全国公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)
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