【この監督に注目】マイナー世界を掘り起こす達人・矢口監督の新作は『WOOD JOB!』

#この監督に注目

矢口史靖監督:1967年生まれ。
『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』(14年)、『スウィングガールズ 』(04年)、『ウォーターボーイズ』(01年)などを監督。
矢口史靖監督:1967年生まれ。
『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』(14年)、『スウィングガールズ 』(04年)、『ウォーターボーイズ』(01年)などを監督。
矢口史靖監督:1967年生まれ。
『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』(14年)、『スウィングガールズ 』(04年)、『ウォーターボーイズ』(01年)などを監督。
『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』
(C) 2014「WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜」製作委員会

矢口史靖監督は、“矢口映画”と作風自体がジャンルになってしまうほど個性的な作風を持ち、なおかつヒットメーカーでもある、邦画界では数少ない監督のひとりだ。出世作の『ウォーターボーイズ』では男子のシンクロナイズドスイミング、『スウィングガールズ』では女子高生によるビッグジャズバンド、『ハッピーフライト』では航空業界の裏側、『ロボジー』は……ロボット!? いや、工業エンジニア、とマイナーな世界にスポットを当て、社会の片隅で巻き起こる珍騒動をおもしろおかしく描いて見せてくれる。そこにはスラップスティックなドタバタから人情喜劇的な笑いも詰め込まれ、感動的なドラマ展開も待ち受けていて思わずホロッとさせられることもあり、幅広い層の観客が満足させるエンターテイメントとなっている。

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彼が世に出たきっかけは、1990年のぴあフィルムフェスティバル(PFF)でグランプリを受賞した『雨女』だ。実はお恥ずかしながら筆者も同年に作品を応募したのだが、箸にも棒にもかからないシロモノで、もちろんのことスルーされた苦い思い出がある。さておき、『雨女』は今の矢口監督の作風とは真逆と言える“負”のエンターテイメントとでも言うようなネガティブなものだが、主人公が何かに向かって突き進んでいく形式は変わらない。

そんな矢口監督の新作は『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』だ。タイトルもシンプルでキャッチーな矢口監督には珍しくサブタイトルが付いているが、それもそのはず。初めての原作もので原作のタイトルが「神去なあなあ日常」(読み方は「かむさりなあなあにちじょう」!)なのだ。原作者は「舟を編む」など映画化作も多い三浦しをん。それも、矢口監督が見つけ出した原作ではなく、映画化のオファーを受けたというから驚く。

しかし原作ものとは言え、そこは矢口監督。綿密な取材のもとに再構築し、堂々たる“矢口映画”に仕上げている。今回、スポットが当たる世界は〈林業〉。大学受験に失敗したチャランポランな少年・勇気は、ふと目にしたパンフレットの表紙の美女につられて林業研修プログラムに参加する。やってきたのはケータイの電波も届かないド田舎の山村で……後はご想像にお任せするが、過酷な林業の現場、荒くれ者の山の男たち、肌に合わないド田舎暮らし、と予想通りで期待通りの展開が待ち受けている。
不思議と、この予想通り、期待通りの展開でも見ていてシラケないのが矢口映画の魅力だ。ドタバタにしても先が読めてしまうのだが、あーあ、ほら言わんこっちゃない!と、むしろ笑ってしまう。労力をかけた綿密な取材による揺るぎない土台、マイナーな世界への慈愛の眼差し、ひいては映画愛が為せる技だろうか。本作も安心してドキドキわくわくと楽しめてしまう。

矢口映画の楽しみに、フレッシュな出演者や新発見というのがある。例えば『ウォーターボーイズ』の妻夫木聡、『スウィングガールズ』の上野樹里というように──。本作の主演は染谷将太で、今や邦画界でひっぱりだこの彼はフレッシュとは言えないかもしれないが、茶髪でチャラい普通の少年役は彼としては珍しく、コミカルな演技は新鮮にうつった。また、かわいくない長澤まさみ、エロい伊藤英明、下品な優香など、それぞれの役者の普段のイメージとは違う発見もある。そうそう、矢口映画の常連であり、矢口監督初の東宝作品である『ひみつの花園』でヒロインを演じた西田尚美の出演もファンとしては嬉しい。(文:入江奈々/ライター)

『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』は5月10日より全国公開される。

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