『LUCY/ルーシー』
脚本家としての仕事は本当に荒いが、自分で監督も兼ねる場合は作りたいものがはっきりしているだけに、妙なパワーを放つことのあるリュック・ベッソン。いろいろなジャンルに手を広げてきたが、やっぱり強いヒロインが好きだということを再確認できるのが、スカーレット・ヨハンソンを主演に迎えた『LUCY/ルーシー』だ。
・【週末シネマ】ネタの使い回しで2度、3度と稼ぐリュック・ベッソン監督の興味深い試み
台北で遊び暮らしている若い白人女性・ルーシーがマフィアの闇取り引きに巻き込まれ、そこで発生したアクシデントから脳が異常に活性化し、猛スピードで人間本来のキャパシティを超えた能力を身につけていくSFアクションだ。
働きもせず頭が空っぽの女が社会の裏で起きている陰謀に巻き込まれて……とまるで『ニキータ』のようなルーシー、『レオン』のゲイリー・オールドマンみたいに登場するマフィアのボス(チェ・ミンシク)。しょっぱなから臆面もなくセルフ・パロディを畳みかけてくるベッソンだが、そこに“脳の覚醒と生命と宇宙”みたいな深遠めいたテーマを掲げてくるので、いつもに増して青臭いストーリーになっている。
10%ほどしか機能しない脳が100%稼働したらどうなるのか。誰も知らない境地だから好き勝手に描けるはずなのだが、ここがベッソンの残念なところで、案外フツーなことしか思いつかない。せっかくの機会なのだから、1つくらいは今まで見たことのないものがあると嬉しいのだが、度肝を抜かれるような奇抜さはない。モーガン・フリーマン演じる脳科学者が出てきてもっともらしい説明をするのだが、当然科学的な根拠はまるでない。未知の領域という設定で全て済ませ、何でもありの状況を作る演出のオレ様ぶりこそがベッソン・スタイルなのかもしれない。
決めきらずに、どこか外したり滑ったりするのも相変わらずで、ロケ地を香港や上海ではなく台湾にするあたりにも独特のセンスを感じる。そして、想像力はあまり豊かではないが、貧困な発想を派手に見せる腕はある。たとえば、パリに舞台が移ってからのカー・チェイスはスピード感があり、東京では到底実現できないような派手な仕上がりで、単純に見ていて面白い。
ベッソンというと、アンヌ・パリロー(『ニキータ』)にミラ・ジョヴォヴィッチ(『フィフス・エレメント』『ジャンヌ・ダルク』)と、女優として発展途上の嫁(撮影当時)しか魅力的に撮れないイメージもあるが、1985年『サブウェイ』のイザベル・アジャーニのように、若くして大スターになった演技派美人女優との相性は悪くない。スカーレット・ヨハンソンもそのケースで、堂々たる演技で次々と起こる突拍子もない展開に説得力さえ持たせている。こんな調子で、いろいろツッコミを入れながら、上映中の90分間は結構楽しめる作品になっている。
それにしてもモーガン・フリーマンはこういう題材がツボなのだろうか。彼の出演シーンだけ、『トランセンデンス』と切り貼りしてもさほど違和感なさそうなくらい、似たような役なのだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『LUCY/ルーシー』はTOHOシネマズ 日本橋ほかにて全国公開中。
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