この新装版『A HARD DAY’S NIGHT』の最大のポイントは、映像と音のクォリティの底上げだ。映像にはフルHD解像度(1920×1080ピクセル)の4倍にあたる4K解像度(3840×2160ピクセル)でリマスターが施され、音声にもDTS-HDなどの高音質フォーマットが追加されている。特典映像にはリチャード・レスター監督の新しいインタビューなども追加されているので、従来のDVDに比べて資料性も高くなっている。買い直しに二の足を踏んでいる人が多いとは思うけれど、その意味では大いに買い直す価値のあるアイテムだと言うしかない。
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特に画質の向上ぶりには目覚ましいものがある。現状、4KマスターをブルーレイやDVDという“器”に詰め込む場合、ブルーレイはフルHD解像度、DVDはSD解像度(720×480ピクセル)でのダウンコンバート収録になってしまうので、パッケージソフトでネイティブの4K映像を楽しむことはできない。本作でもそれは同じだ。しかしマスターが4Kという強みは、ダウンコンバートされたブルーレイやDVDの映像でもはっきりと感じることができる。4人の髪のツヤや衣服のディティール、陰影の滑らかさなどが増して、モノクロ映像にいっそうの深みが感じられるようになった。なので、“MTVの父”と呼ばれ、従来のミュージカル映画とは明らかに一線を画す演奏シーンも、一段と魅力的に映る。レスター監督はこの『A HARD DAY’S NIGHT』と翌年の『ヘルプ!(4人はアイドル)』の合間に『ナック』という傑作をものにしているけれど、これと『A HARD DAY’S NIGHT』を見れば、この監督の作風がモノクロ映像と相性がいいことは明らかだ。いまだブルーレイ化されていない『ナック』だけに、『A HARD DAY’S NIGHT』と並ぶくらいの高画質で新装リリースされることを期待したくなる。
ちなみにレスター監督は、91年にポール・マッカートニーと再びタッグを組んで『ゲット・バック』というドキュメンタリーを作っている。これは89年に始まったポール久々のワールド・ツアーの模様をまとめたもので、世間的な評価はイマイチだった。確かにこの人は70〜80年代にはパッした作品を作っていないけれど、『ゲット・バック』はいま見ると見せ場を把握した巧みな編集とポール自身の好調ぶりが嬉しい良作だ。ブルーレイ/DVDも2012年にリリース済みなので、未見の方は今回の『A HARD DAY’S NIGHT』と合わせてぜひ。
2009年に全オリジナル・アルバムのリマスターCDが発売されて以来、再び加速するばかりのビートルズ商戦。ここ数年は毎年何らかの新商品が出ていて、今年はこの『A HARD DAY’S NIGHT』のブルーレイと、今週発売されたばかりの『MONO LP BOX』が目玉のようだ。当時モノラルで発売されたオリジナル・アルバム全11作に3枚組編集盤「モノ・マスターズ」を加えた全14枚(およそ6万円!)。きっと来年は、公開50周年を迎える映画『ヘルプ!』のリマスターBlu-ray/DVDが発売されたりするんだろう。ファンとしてはそれに一喜一憂しながら上手く付き合っていくしかないけれど、このリリースの多さはとても解散して40年以上経っているグループのものとは思えない。やっぱり別格ですね。ビートルズは。(文:伊藤隆剛/ライター)
『A HARD DAY’S NIGHT』ブルーレイは好評リリース中(初回限定版6800円/税別、通常版4800円/税別)。
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