映画『ワンダフルワールドエンド』は、シンガー・ソングライターの大森靖子がインディーズ時代にリリースしたアルバム『絶対少女』収録の2曲──「ミッドナイト清純異性交遊」「君と映画」のPVを基に作られている。PVにも出演していた橋本愛と蒼波純がダブル主演、監督も同じく松居大悟がつとめている。映画とPVの制作は同時進行だったらしく、2本のPVのエピソードをほぼそのまま使いながら、そこへ新たな“つなぎ”を追加して82分の映画としてまとめた格好だ。
松居大悟監督は以前から人気バンド、クリープハイプのPVなどを手がけており、2013年にはそこから生まれた短編映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』をヒットさせている。音楽との関わりが深い映像作家という意味で、当コラムでも紹介した『SR サイタマノラッパー』シリーズや『日々ロック』などの入江悠監督あたりと並ぶ注目株と言っていいだろう。
いまや新世代女性シンガー・ソングライターの旗手である大森靖子。彼女の名を広く知らしめた『絶対少女』というアルバムは、全体が少女讃歌で埋め尽くされたような作品で、実際“すべての女の子を肯定する”というテーマを掲げて作られたと言うが、橋本愛の演じる売れない高校生モデルと、彼女の追っかけである13歳の少女(蒼波純)の“百合”的な強いつながりは、そのまま『絶対少女』の世界観を反映している。“さよなら、男ども。”というキャッチコピーからも分かるように、劇中にはとにかくロクな男が出てこなくて、現実と妄想が入り組んだ“絶対少女”な世界が終始繰り広げられる。そういうわけでこの映画は、正しく『絶対少女』の映像版であると同時に、サブテキストとして『絶対少女』をさらに深く楽しませるための役割も果たしていると言えそうだ。
ちなみにこの『絶対少女』のプロデュースを担当したのは、カーネーションの直枝政広。マニアックで根強いファンを持つミュージシャンズ・ミュージシャンだが、大森のあまりにもネイキッドでエキセントリックな作風を、大衆性を持ったポップ・ソングとしてきっちり落とし込んでいる。大森靖子を広く知られる存在に押し上げた彼の仕事ぶりは、もっと評価されていいだろう。この映画でも直枝は音楽プロデューサーとしてクレジットされている。
そしてもうひとり、この映画の影のキーパーソンとして忘れてはいけないのが、元モーニング娘。の道重さゆみの存在だ。熱烈な道重ファンである大森は、方々のメディアで彼女への偏愛ぶりを語っており、「ミッドナイト清純異性交遊」は、道重について歌った曲であることを公言している。そう考えると、この曲をモチーフのひとつとする『ワンダフルワールドエンド』は、“大森靖子というフィルターを通して見た絶対少女(=道重さゆみ)を描いた作品”と言うこともできるわけで、そういう視点で見るとまた違った余韻を楽しめるかもしれない。(文:伊藤隆剛/ライター)
『ワンダフルワールドエンド』は1月17日より全国順次公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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