新年、明けましておめでとうございます。今年も「ムビコレ」ならびに当コラム【映画を聴く】をご愛読いただきますよう、よろしくお願いします。 ……なんて書いていますが、実は今日、まだ12月26日です。世間的には仕事納めの日だったりします。みなさんは年内の仕事やら家事やら、きっちり納まりましたか? 当方は明日、いや明後日には全部納まっている予定。この記事がアップされるころには、年末に買い込んだBlu-rayやらCDやらアナログ盤やらハイレゾ音源やらを貪っているはずです。
それはともかくとして。今回は新年1本目ということで、いつもの【映画を聴く】とは趣向を変えて、映画ファンにこそおすすめしたい音楽家を何人か紹介したいと思います。題して【見る音楽】。その日本人編です。
まずは、ピアニストの中島ノブユキ。2013年のNHK大河ドラマ『八重の桜』の音楽を坂本龍一とともに担当したことで広く知られるようになりましたが、それ以前からジェーン・バーキンの音楽ディレクター兼ピアニストとして世界中をツアーで回るなど、クラシック畑に留まらない活動を展開している人です。これまで何枚かソロ・アルバムも発表していて、なかでも昨年2月に出たピアノ・ソロ作品「clair-obscur(クレール・オブスキュア)」は、映像喚起力が半端ではない秀作。イタリア人ピアニストの巨匠、アルド・チッコリーニが所有していたというピアノを使ったホール録音で、陰影に富んだその優雅な響きには、聴き手にさまざまなイメージを膨らませるだけの“余白”がたっぷり残されています。過度にコンプレッションをかけて音圧を高められた昨今のJ-POPやK-POPの流行歌を聴くのに疲れてしまった耳にはヒーリング効果も大きいはず。夜更けに独りで聴くことをおすすめします。2015年は、2月公開の映画『悼む人』(原作:天童荒太)でも音楽を担当しているということで、映画ファンにも見逃せない音楽家です。
その中島ノブユキとも交流があり、音楽的にも交差するところが多いのが、ギタリストの伊藤ゴロー。90年代からボサノヴァ・デュオ=naomi & goroとして活動してきた人で、昨年11月にリリースされたばかりの「RENDEZ-VOUS IN TOKYO(ランデヴー・イン・トーキョー)」というアルバムは、ブラジル人チェロ奏者のジャキス・モレレンバウムとのコラボ作。これまでも何度か共演してきた2人だけに、そのコンビネーションはこれ以上ないほどの高みに達していて、ブラジル音楽をベースとしつつも多様なエッセンスが散りばめられたハイブリッドな音楽に仕上がっています。伊藤ゴロー本人の爪弾くアコースティック・ギターに絡むジャキスのしなやかなチェロの音色がとにかく美しく、中島ノブユキの音楽と同様に映像的イマジネーションがどこまでも広がるけれど、モノトーンな「clair-obscur」に対してこの「RENDEZ-VOUS IN TOKYO」はもうちょっとカラフル。ジャキスの奥さんや娘さんが数曲でヴォーカルを担当しているせいか、室内楽的な箱庭感に終始しない芳醇さが魅力に加わっています。映画との親和性がかなり高そうに思える伊藤ゴローですが、意外にも映画音楽としては2006年の『雪に願うこと』くらいしかまとまった仕事がなく、今年は映画界での活躍も個人的に期待しています。(…後編に続く)(文:伊藤隆剛/ライター)
・今年の活躍にも期待! 映画ファンにおすすめしたい日本人音楽家たち/後編
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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