『パンク・シンドローム』は、本国フィンランドで2012年に公開された音楽ドキュメンタリーで、知的障害を持つメンバー4人で結成されたパンク・バンドの活動を追っている。バンドの名前は“ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァド”(以下PKN)。何かしらのハンディキャップを持つ人を扱ったドキュメンタリーでは、往々にして涙を誘う方向へ視点が偏りがちだったりするが、この映画に関してはそういう湿っぽさは皆無。誤解を恐れずに言うなら、よくできたハートフル・コメディを見たか後のような、爽やかな余韻を残す作品に仕上がっている。
PKNは、ペルッティ(ギター、作詞/作曲担当)、カリ(ヴォーカル、作詞/作曲担当)、サミ(ベース)、トニ(ドラム)の4人により、ヘルシンキの“リュフツ”というNPOの主催するワークショップの一環として、2009年に結成。最年長のペルッティは57歳、最年少のトニは32歳と、メンバー間に四半世紀分もの年齢差があることがそもそもバンドとしてユニークだが、各自の“キャラ立ち”がまた半端じゃない。他人の服の縫い目やほころびを執拗に気にするペルッティ、足の爪を切ってもらうフットケアを大の苦手とするカリ、政治活動に熱心で美人議員を応援しているサミ、いつも笑顔を絶やさないが実家を離れることを拒み続けるトニ。そんな4人が余計な気遣いや遠回しな物言いの一切ない、むきだしの本音でぶつかり合う様子が生々しく記録されている。
“むきだし”という意味では、ペルッティとカリの作るバンドのオリジナル曲も同じだ。「権力者はペテン師だ/俺たちを閉じ込める/障害者のことなんて/何も考えちゃいない」「精神科施設では豚のエサを食わされる」「グループホームは嫌いだ/施設には住みたくねえ」「少しばかりの敬意と平等が欲しい」等々、彼らが日常で感じたままの言葉が、ペルッティの刻むリフに乗せて繰り返し歌われる。その言葉はどこまでもストレートで、サウンドは驚くほど簡潔。
パンクの定義については意見の分かれるところかもしれないが、初期衝動や反体制的なメッセージを多分に含む音楽をそう呼ぶとするなら、彼らの音楽は疑いの余地なくパンクだ。いまやアティテュードと言うより“ひとつの音楽ジャンル”として成熟/商業化したものが少なくないパンク・ミュージックのなかにあって、贅肉を削ぎ落とした彼らの音楽は、パンク本来の成り立ちを改めて考えさせるような本質を捉えたものであることは間違いない。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
『パンク・シンドローム』は1月17日より全国順次公開中。
・本当のパンクってこういうこと!? 知的障害者たちのバンド活動を描く『パンク・シンドローム』/後編
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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