「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映画の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「3D(その2)/立体視と偏光メガネ」
●オススメBlue-ray『肉の蝋人形』
3D映画史において、そのブームは周期的に訪れるのが特徴だ。1950年代前半にはお茶の間を占拠するテレビを打倒すべく、その対抗策のひとつとして3D技術に注目が集まり、第1次3Dブームが訪れる。
本格的なカラー立体映画第1作は、52年11月公開の『ブワナの悪魔』(監督アーチ・オーボーラ/主演ロバート・スタック)。人喰いライオンとの戦いを描いた本作の大ヒットで3D映画の製作が加速し、53年には世界中で86作品(短編含む)が公開。とりわけ4月に公開された『肉の蝋人形』(監督アンドレ・ド・トス/主演ヴィンセント・プライス)は、第1次3Dブームにおける最大のヒット作となった。
現在では広く普及している偏光メガネ(パッシブ3Dメガネ)の正式デビューとなったが、立体視という用語が一般に認知されたのもこの時期だ。その原理を簡単に説明すると、右目と左目の視差(画像のズレ)により、脳内で立体感覚を構成するもの。 2台のカメラで視差のある画像を作り、右目は右目用カメラの画像を、左目は左目用の画像のみ見るようにすれば、立体視が可能となる。
1935年に技術開発された偏光メガネは、ひとつの方向の光だけを通し、それ以外の光を通さない特性を持つ偏光フィルムが貼り付けてられている。左右の目用に振り分けられた(2台の)映写機の光は、偏光メガネによって左目は左目用の映像光、右目は右目用の映像光しか見ない仕組みが実現されるのである。
前述した『肉の蝋人形』のブルーレイ版では、あらたに左右の35mmネガを発見。しかも3色分解式テクニカラー作品のため、左用3色ネガ(シアン/イエロー/マジェンタ))、右用3色ネガ(同)を4K解像度で6回スキャン、左右各色ネガをデジタル修復するという気の遠くなる作業が行われている。
『肉の蝋人形』公開の翌54年、3D映画の製作数は27本。55年になると計4本と一気に減少し、ブームは急速に終焉を向かえてしまう。足かせとなったのは大掛かりな撮影・上映機材。拍車をかけたのは技術的な未熟さであった。1950年代は映画の技術革新の時代であったが、第1次3Dブームはまたたく間にシネマスコープに代表するワイドスクリーン時代の波に呑み込まれていったのである。この続きは次回。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は7月3日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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