「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映画の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「デジタル3D」
●オススメBlue-ray『猿の惑星:新世紀(ライジング)』
50年代の第1次3Dブームが収束したのち、1980年代には第2次3Dブームが訪れる。映画では『ジョーズ3D』(83年/『ジョーズ3D』のタイトルで公開)、『13日の金曜日Part3』(82年)といった作品、また『キャプテンEO』に代表されるテーマパーク向け作品が製作。このうち映画3D作品は、企画の質が技術に追いつかずに早々と収束の道をたどることなった。
前章からここまでの3D映画は、すべてフィルム作品である。そして21世紀。デジタルシネマの普及により、3D制作の手法も大きな変革を迎えることとなる。デジタルシネマを簡単に説明すると、フィルムを使用せずに撮影から編集、上映、配信に至るまで、すべてデジタルデータで対応する映画のこと。このデジタル技術を最大限に利用した立体映画を、デジタル3D映画と称している。
ラジオの対抗策としての1920年代/黎明期。テレビへの対抗策としての1950年代/第1次3Dブーム。そして2005年。ホームシアター等の進歩による観客の映画館離れを食い止めるため、フィルム上映や家庭では再現できないコンテンツの差別化が必要とされた。ルーカスやキャメロンといった著名監督がこの問題について議論を重ね、打開策として打ち出されたのがデジタル3D映画の推進であった。
『チキン・リトル』(05年)、『ポーラー・エクスプレス』(04年)といった作品の3D版が試験的にデジタル上映されると、フィルム2D上映版に比べ4倍近くの観客を動員。そして満を持して2009年に『アバター』が登場するや、デジタル3D映画の分野を確立し、同時に第3次3Dブームが到来することとなる。その3Dの光は、世界的不況の直撃を受けた映像業界を輝かしたのだ。
『アバター』ではソニー製デジタルカメラをベースにデジタル3D撮影カメラが開発されたが、近年では多くの撮影機器メーカーが3D撮影用デジタルカメラを開発、その性能は『アバター』時代のはるか上を行く。
『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(14年)は最高級の3D映像を披露するシリーズ最新作であり、名門アリフレックス製デジタルシネマカメラによる3D撮影作品だ。しかし実は3D撮影ショットは全体の半分、残り半分は2D映像を3D変換したものとなる(『アバター』も一部場面は3D変換)。この3D変換の話はまた次回。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は7月17日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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