「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映像技術の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「ドルビーアトモス 後編」
●オススメBlue-ray『エベレスト 3D』
縦=高さ方向の再現を加え、上半球360度の3次元的表現を可能にするシネマ音響、それがドルビーアトモスだ。スクリーンの背面のスピーカー配置は従来通りだが、サラウンド・スピーカーはスクリーン近接位置から全周壁面配置され、さらに天井には3D表現を高める2列のオーバーヘッド・スピーカーが配置される。音声記録が可能なトラックは最大128トラック、出力は最大64chとなる。
前回お話しした「チャンネルベース=BED」(従来の5.1ch、7.1ch音声)と「オブジェクト」(位置情報が記録された音声データ)の組み合わせにより、映画館内のどのような位置にでも自在に音を定位させたり、移動させたりできる。すべてのスピーカーが独立しているので、スピーカーをひとつずつ移動するように音を動かすことも可能だ。
例えばジェット機が頭上を斜めに横切る音や、ヘリコプターが360度旋回する音は明瞭な移動音の軌跡で再現できる。右斜め上で雷鳴が轟き、左斜め下に向かって稲妻音を作りことも可能だ。ジグザグに飛ぶ虫の音。降り注ぐ雨の音など、音響表現は従来のサラウンドとは別次元と言える自由度を持っている。
また音楽再生ではフロント・スピーカーを使用せず、最前方のサラウンド・スピーカー(右左数台ずつ)を使用。フロント・スピーカーはというと、台詞と効果音のためにだけ使用するというケースもある。
ドルビーアトモスはこれまでの物理的なチャンネル再生の概念を飛び越えた規格であり、従来はスタジオで行っていたミキシングを劇場再生時に行うものと解釈して構わない。劇場容積の大小、スピーカー数の多少にかかわらず、いかなる環境でもクリエイターの制作意図を忠実に実現できる。これがドルビーアトモスの特長のひとつなのである。
言い換えれば、ドルビーによって用意されたドルビーアトモスという器を活かすも殺すも、あとはクリエイターの感性、想像力次第ということ。最新ブルーレイでは『エベレスト』が特A級の仕上がりとなっている。穏やかな山岳地帯の環境音から、怒り狂ったような暴風雪に至るまで、必聴の作品である。さて次回はご家庭でのアトモス再生について。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は5月6日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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