【映画を聴く】『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』前編
タモリの音楽的な勘のよさと、ハナモゲラ語の
スリリングな即興性が超ハイレベルでブレンド
『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』は、赤塚不二夫生誕80周年記念企画のひとつとして、テレビシリーズ『おそ松さん』に続いて公開されるアニーメーション&ドキュメンタリー作品。“マンガも面白いが本人はもっと面白い!”というキャッチコピーの通り、人生をギャグに捧げた赤塚不二夫の破天荒すぎる生涯を辿る内容で、室井オレンジによるアニメを軸に本人の肉声や秘蔵写真、関係者の証言など、膨大な素材が盛り込まれている。
石ノ森章太郎、ちばてつや、つのだじろう、寺田ヒロオ、藤子・F・不二雄、藤子不二雄Aといった漫画家仲間をはじめ、写真家のアラーキーこと荒木経惟、アートディレクターの田名網敬一、ジャズ・ミュージシャンの坂田明、当時の担当編集者、アシスタント、親族などなど、50名を超える関係者の顔ぶれがとにかく豪華。中でも本作の大きな話題は、主題歌をタモリが担当していることだ。
2008年の赤塚の告別式で白紙の弔辞を読み上げ、多くの人を驚かせたタモリ。その弔辞を「私もあなたの数多くの作品のひとつです」と締め括っていたことからも分かるように、両者の関係は長く、同時にとても深い。あの時に赤塚への思いはすべて言い尽くしたというタモリは、本作へのインタビュー出演を辞退。それでも諦めきれなかった坂本雅司プロデューサーがダメもとで主題歌をオファーしたところ、意外にもOKの返事をもらったのだという。タモリは3月に『天才バカボン』が実写ドラマ化された際にも有名なあの主題歌を完全コピーで歌っており、赤塚関連作品への参加が続いている。
主題歌の「ラーガ・バカヴァット」はタモリ本人が作詞、タブラ奏者のU-zhaan(ユザーン)が作曲したインド音楽風の楽曲。バカヴァットはサンスクリット語で“聖者”を意味し、バカボンの語源とも言われている。作詞といっても、ここでのタモリの歌は得意技の“ハナモゲラ語”によるもので、レコーディングはほぼ即興で行なわれたという。
スーフィズム(イスラム神秘主義)の宗教歌謡、カッワーリーのようでもあるタモリの歌声は崇高さすら感じさせ、トランペット奏者としての音楽的な勘のよさとハナモゲラ語のスリリングな即興性が恐ろしく高いレベルでブレンドしている。1975年にタモリの芸に惚れ込み、彼をお笑いの道へ誘った赤塚へのリスペクトに溢れる仕上がりで、「やっぱりタモリはスゴい」という世評に拍車がかかることは間違いない。(後編「音楽担当のU-zhaanって誰?」へ続く…)
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