37年間に渡って『E.T.』や『ジュラシック・パーク』といったハリウッド映画を日本に配給し、日本の洋画市場を牽引してきた大手配給会社UIP。その解散に伴い、メジャースタジオの1つであるパラマウント ピクチャーズの映画を配給すべく、2008年1月に発足したのがパラマウント ピクチャーズ ジャパンだ。
スタート年である昨年は、57.1億円の興収で昨年の洋画NO.1ヒットとなった『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』などもあり、年間興収81.7億円を記録するなど、滑り出しは上々。一方で今は、洋画が低迷し、邦画の時代ともいわれている。この流れはこのまま加速していくのか? それとも、洋画の巻き返しがはじまるのか? この夏、『トランスフォーマー:リベンジ』『モンスターVSエイリアン』『G.I.ジョー』という話題作が公開となる同社の代表取締役・岡崎市朗氏に、思うところを語ってもらった。
日本人スターの海外での活躍が洋画復活の鍵
「弊社が発足してから1年半。まずは会社としての機能作りからはじめる必要があったので、最初はどちらかというと、突っ走っている状態でした。やることが次々と決まり、山積みになる中で、どうやるかよりも、まずは、こなすことが求められます。ただ、幸いなことに、興行会社や代理店など様々な会社が協力してくれたおかげで、1年目はいいスタートを切ることができました。2年目の今年は、いろいろと数字が出てきたおかげで、具体的な事業計画を出せるようになってきた。今は、こういう形で行くという方向性が、少しずつ見えてきている状態です」
だが、この1年半は経済が悪化し、マーケットが猛スピードで変化してきた時期でもあった。報道1つとっても、昔だったら何か月も消えないような事件の記憶が、今はすぐに風化してしまう。要因の1つが情報量の急速な増加。それは映画界でも同様で、それゆえに客のニーズも、日に日に変化してきているという。
「洋画の場合、私たちの主な仕事は映画を作ることではなく、ハリウッドで作られた作品を、日本市場に合わせて商品化することになります。そこで重要になってくるのが消費者の動向。何を望んでいるのかを迅速にキャッチし、それに合わせたキャンペーンを展開していくのですが、その難しさを今、ヒシヒシと感じています」
岡崎氏が言う「難しさ」は洋画人気の低迷にも現れている。3年前の2006年に、21年ぶりに邦画の興収が洋画を上回る「邦洋逆転」が起こり話題となったが、昨年も邦画が洋画を上回るなど、今、日本の観客は、邦画を見るために劇場に足を運んでいるのだ。「ただし、当たっている邦画は全体の一部」と同氏は分析する。
「邦画ヒットのパターンの1つが『コミック→テレビシリーズ→映画』という方程式。すべての邦画がヒットしているわけではなく、こうしたパターンにはまっていない映画は、以前同様、苦しい思いをしている。ここで大事になってくるのが、実は観客の変化なんです。
僕らが若い頃は、内容や結末を知らないからこそ、映画を見たいと思っていた。ところが今は、ヒット映画のほとんどが、結末までわかってしまっている。例えば『余命1ヶ月の花嫁』。タイトルを聞いただけで結末は想像できるし、テレビのドキュメンタリーを見て、内容を知っている方も多い。それが今ヒットしているのは、消費者の動向が変わってきているから。1番の理由は、わからないものを試すのではなく、わかるものを楽しみたいという気持ちへの変化なのでしょう。
業種は違いますが海外旅行でも、昔は未知の体験をしてみたいという思いがあったし、失敗しても、だからこそ面白いと思っていた。それが今、旅行会社によると、若い人は海外に行きたがらないし、行っても自由時間を望まないそう。もちろん今でも、バックパッカーは大勢いると思いますが、徐々に、それが主流ではなくなってきている。そう考えると、洋画も今後、どんな内容なのかをきちんと知らせていく必要があるのかもしれません」
ただし、現在はインターネットが普及し、情報が一夜にして世界中に知れ渡ってしまう時代。話はそう単純ではないようだ。
「日本では内容を知ってもらった方が、より観客の興味をそそるとしても、その情報が瞬時に世界を駆け巡ってしまうとなると、アメリカのフィルムメーカー側も、情報を出したがらなくなる。こうした、日本人のニーズと、世界のスタンダードとの違いも、洋画低迷には少なからず影響を与えていると思います」
また、洋画の場合、アメリカと日本で興行成績が大きく異なるケースも少なくない。昨年、アメリカで『タイタニック』に次ぐ歴代2位の興収を記録しながら、日本では興収16億円に留まった『ダークナイト』はその好例。現在、アメリカで興収2億4000万ドルを超える大ヒットとなっている『スター・トレック』も、日本では伸び悩んでいる。
「『スター・トレック』の場合、同じ日に『ROOKIES −卒業−』という、とてつもないライバルがいたことも大きいでしょう。一昔前は、邦画と洋画では観客層が異なると思われていたが、今は同じマーケットを分け合っている。『スター・トレック』はキャストが一新されて若返ったので、『ROOKIES』を見ている人たちにも見てほしかったのですが、実際に劇場を訪れると、年配の方が多い印象はありました。若い世代に洋画を見てもらいたいとの思いは、どの洋画配給会社とも共通だと思います」
打開策の1つが、日本人スターの世界進出だ。
「野球では現在、日本人選手がメジャーリーグに進出し、活躍しています。そうなってくると、メジャーの試合なんて見向きもしなかった人たちまでもが、興味を持つようになってくる。同じように、今、大勢出てきている若手スターの中で、例えば小栗旬さんのような方がハリウッドで活躍するようになると、結果的に日本映画も活性化し、ハリウッド映画も、より日本人に身近な存在になっていくのではないでしょうか」
洋画の課題は、ハリウッド新世代スターの認知度アップ!
そのパラマウントはこの夏、話題作の公開が目白押しだ。まずは、6月20日に公開となった『トランスフォーマー:リベンジ』。6月末時点で今年最大のヒットとなっている『ROOKIES』に阻まれ、初登場1位こそならなかったが、最初の週末に興収5.6億円を記録する好スタートを切った。
「『トランスフォーマー』は我々にとって、昨年の『インディ・ジョーンズ』と同じポジションの作品。これをどう当てていくかが、今年の指標の1つになると考えてきました。だからこそ、アメリカ本社と話をし、映画という1つのジャンルを超えたイベントにしていくつもりで、日本でのワールドプレミアや、世界最速公開が実現するよう、1つずつ交渉を積み上げてきました」
前作に引き続き主演をはるシャイア・ラブーフやミーガン・フォックスの知名度も、ここ1〜2年で大幅にアップした。だが、日本での宣伝展開では、彼らの知名度アップはあまり響かないという。
「日本では、今なおトム・クルーズ、ブラッド・ピット、ジョニー・デップがトップスターなんです。彼らが頭角を現してきたのが80年代終わりから90年代にかけて。気がついてみると、みんな40代で、若者にとってはすでに父親と同世代。『スター・トレック』のクリス・パインや、『トランスフォーマー』のシャイア・ラブーフといったハリウッドの新世代スターを日本で認知してもらうことが、今後の課題の1つであり、洋画配給会社にとって財産になっていくと思います」
すでに「世界一セクシー」という称号を与えられているミーガンも、シャイアも、アメリカではトップスター。日本より1週間遅れの6月24日に公開されたアメリカでは、5日間で興収2億ドル(約200億円)を超える、映画史上、過去に2作しかないという大ヒットスタートとなった。この追い風を受け、これから夏休みに入る日本でも、まずは、前作の興収40.1億円超えを視野に、数字を積み上げていきたいところだ。
7月11日には、今年話題を集めている3D映画の1本である『モンスターVSエイリアン』も公開となる。「アニメの場合、どうしても、すでに知られたキャラクターが出てくる映画が興行的にも強く、この映画のように新しいキャラクターが登場する作品では、出発点から差が付いてしまいがちです」と岡崎氏。それを埋めていくためにも、全国で大規模な試写会を展開。見せ込むことで、作品の良さを広げていきたいという。
特殊なメガネをかけることで画(え)が飛び出してくる3D映画の中でも、『モンスターVSエイリアン』は、最初から3Dを意識した演出がなされていることもポイントだ。
「今の技術があれば、昔の映画でも3Dに加工し直せる。それでも立体的に楽しめるが、もともと3Dを意識した演出ではないため、3Dの魅力を伝えるダイナミックさに欠ける。『モンスターVSエイリアン』は最初から3Dを意識して製作されているので、他の3D映画とはひと味違っている」
さらに8月7日には『G.I.ジョー』も日米同時公開となる。
「これはまったく新しい物語として作り出しています。宣伝的にも、アクションフィギュアやドラマの『G.I.ジョー』を知らない人たちに訴求していきたいと思っています。もちろん、『G.I.ジョー』は認知度も高いので、そこは利用していきたいところ。今回の『G.I.ジョー』は、世界中から集められた史上最強の国際機密部隊の“G.I.ジョー”が活躍する話で、アメリカに特化していません。新しい武器も次々と出てきて、スピード感もある痛快アクション。それを最大の武器に、夏休みに楽しめる映画としてアピールしていきたいですね」
(テキスト:安部偲)
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