人類滅亡後の荒れ果てた世界で目覚めた、1体の古ぼけた人形。自分は誰なのか、なぜここにいるのか? そして一体、ここはどこなのか? すべてが謎だらけの世界に戸惑う彼に、恐ろしい外敵が襲いかかる……。
不思議な感動をもたらすダークファンタジー『9〈ナイン〉〜9番目の奇妙な人形〜』は、2005年のアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされた1本をもとにした作品。オリジナル版『9』の出来映えに驚愕したティム・バートン監督は、「これまでの人生で見た映像のなかで、最高の11分だった」と絶賛。『ウォンテッド』のティムール・ベクマンベトフ監督も作品に魅せられ、2人はプロデューサーとして製作をバックアップすることになったのだ。
監督はシェーン・アッカー。なんと本作が初の劇場映画となる。生まれてきた意味や命の根源といった哲学的なテーマを秘めたこの映画を手がけたアッカー監督に、完成までの長い長い道のりや映画への思いについて語ってもらった。
──オリジナル作品で監督デビューできるなんて、まれに見る好運だと思いますが、感慨はありますか?
監督:このような機会を与えてもらって、本当に嬉しい。こんな好運は二度とないかもしれませんが、すべては短編のおかげです。みなさんが短編の『9』にインスピレーションを感じてくださり、長編化の企画が動き出したわけですが、その世界観があまりに奇妙なので、僕にしか理解できないだろうと、監督に起用してくれたんでしょう(笑)。情熱を感じ、心血を注いで作った作品なので、これで長編デビューできたことはとても嬉しいです。
──オリジナルの短編を作るのに4年半かかったそうですが、その間、「果たして完成するのだろうか?」と不安になったりしましたか?
監督:ええ、不安になったことはあります。特に3年目は心理的にキツかったですね。自分が1つのアイデアと格闘し続けている間に、世界はどんどん進んでいってしまうと感じたんです。一方で、(4年半の間に)アニメーター、映画作家として、今後に役立つと思えることがたくさん学べ、それが心の支えになっていたのも事実です。
4年半の間、できるだけいろいろな人たちに制作過程を見せるようにして、たくさんの意見を聞き、物語を“強く”するよう心がけました。その結果、「この作品は映画祭にも出せるんじゃないか。イケるんじゃないか」という気持ちにもなれたんです。
──そうして完成した作品を、ティム・バートン監督やティムール・ベクマンベトフ監督が高く評価してくれ、長編監督デビューに至ったわけですね。
監督:あんなにすばらしい経験と才能を持った監督たちがプロデュースを買って出てくれたことは、すごい好運だと思いました。と同時に、彼らの期待に応えるために最善の努力を尽くし、頑張らなければとも思いました。(制作期間を乗り切るために)健康面でのプレッシャーも感じました(笑)。
ティムが参加した経緯について説明すると、最初はプロデューサーのジム・レムリーが長編化の話を持ちかけてくれ、彼がティムに連絡してくれたんです。幸いティムが短編をとても気に入ってくれたので、今度は僕自身がティムに電話し、「こういう作品を作りたいんです」と説明し、参加してくれることになったわけです。
この映画は、アメリカの他のアニメーションに比べてちょっとダークなので、アメリカで、ダークファンタジーアニメの新機軸を築いたティム・バートンが参加してくれたことは、非常に重要なことだと思います。
──この映画は、人類が滅びた後に残された人形たちの物語です。彼らは「僕らはなぜ生まれて、どこに行くのか?」と考え続けますが、我々人間も、自分の存在意義などについて同じようなことを考えたりします。これは、人間の姿を人形に重ね合わせて描いた作品なのでしょうか?
監督:そうですね。主人公たちが生きる世界は、我々が生きる世界とはちょっと違いますが、彼らの旅は自分を再発見していく旅で、だから、彼らは人間を象徴するような存在でもありますね。さらに言えば、人類の持っている希望や可能性も象徴していると思います。
映画のなかの人類は生き残ることに失敗してしまい、セカンドチャンスを託されたのが“人形”。人形たちが、自らの力でより良い未来を切り開くことができるのかというのが、この物語のテーマなのです。
『9〈ナイン〉〜9番目の奇妙な人形〜』は、2010年5月8日より新宿ピカデリーほかにて全国公開される。
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